「来年には仕事がなくなるんじゃないか」と思って自信がないというパンタグラフ・井上さん。フリーランスにありがちな不安ではありますが、「うそでしょー!?!?」と思わずにいられません。話を聞くと、そこではやはり「クライアントワーク」「作家的な仕事」の分類があるようです。番組の最後に、今回で井上さんは最後とお伝えしていますが、もう1回あります!!!
クリエイティブの。
反対語。
こんにちは、ストーリーエディターの栃尾江美です。
こんにちは、造形作家の井上です。
このポッドキャストは私、栃尾江美が好きな人やお話したい人をお呼びして、クリエイティブに関することや哲学的なことを好き勝手に話す番組です。今回もパンタグラフ井上さんに来ていただきました。よろしくお願いします。
はい、よろしくお願いします。
なんか話を聞いていたら、「自信がない」っていうキーワードが出てきて、「そんなはずはないだろう」って思ったんですけど(笑)。
(笑)。
それについてね、お伺いしたいなと思いまして。
そうですね。
はい。
「自信の塊」っていう言葉を聞いたことがありますけれども、僕は「自信のなさの塊」ですね、ホントに。
(笑)。
本当にそうだと思います。
えっ。
毎年、「仕事がなくなるんじゃないか」っていう、ずーっと不安ありますし、「この仕事こそコケるぞ」と思いながら作品を作ってますし。
なるほど、なるほど。
「もう弾切れだぞ」と思いながらアイデアを出してますし。
(笑)。
(笑)なんかそういうネガティブな、ネガティブな気持ちを抱えながらやってます。
え、でもさすがに、先の予定まである程度決まってるわけですよね?
うーん、いや、そんなことないですね、わりと僕の業種だと短いですかね。
あぁ、広告とかだと。
うーん、そんなに先の予定までは……、連載がちょこちょこあるだけで、うーん、やっぱり広告の世界ってサイクルが速いので。
うん、うん。
直前に入ってきて、「もう来月撮影なんだけど作ってくれる?」とかってことのほうが多いですかね。
なるほど、じゃあ、結構月ごとに売上は波があるみたいな感じですか?
はい、そうですね。もうガタガタです。
ガタガタで(笑)。
もうグラフがガタガタで、バラバラですね。
ふーん、でも、特に営業もそんなにせず、途切れることもなくずーっとやってるわけですよね?
そうですね、最初だけ営業したんですけども、それ以降は口コミだったりとか、ウェブを見て来てくださった方だとか。
うん。
学生時代の繋がりっていうのも結構あって。
いまだにですか?
そうです。
えー。
大学の繋がり、僕らの学校とか学部とかってちょっと特殊に思われるんですけど、すごく仲がいいんですね。
ふーん。
お互い一緒に仕事をしたりとか、呼んでくださったりとか、っていうことがあるので、いまだに同級生とか先輩とかと仕事はしていますね。
へぇ。
なかなかこう縦の繋がりが強い。そういうのにも救われています。
ふーん。えっと、そういう芸術関係の人っていうか、そういうのって自信がある人の方が多いのかなと思ったんですけど、そんなことないんですか?
全然ないと思いますよ、皆(笑)。
皆、ないんだ。
皆、ないと思いますね。ちょっとそれは極端ですけど。
はい、はい。
うーんと、ないからこそやっと続けていけてる人の方が多い……、多いというか、(そういう人)もいると思います。
正解がないし、やっぱりオリジナリティを追究しないといけないみたいなところって、道なき道をいくみたいなのありますよね。
そうですね。だからそこに不安を感じながら、綱渡りしてやっていってる人も多いんじゃないかなと僕は想像しますけどね。
うーん、うん、うん。
うん。
さっき、なんかコケるんじゃないかみたいな恐怖は。
はい。
どうやって克服するっていうか。
あぁ、克服ですか。
なんて言うんだろう。
そうですねぇ……、どうやって克服してるんだろう。
えっと、コケるみたいなのっていうのは、広告は、例えば動画、「これを出すことになりました」って言って、その動画があまり評判にならないとか、広まらないっていうことですよね?
うん、それもそうですし、「自分の思うようにできなかった」っていう。
あぁ、出来上がりが?
うん、出来上がりが。「評価はともかく自分がやりたいようにできなかった」とか、「良いアイデアが思いつかなかった」とか。
なるほど。
「そういうことになるんじゃないだろうか」と思いながらやってますね。
ふーん。それって……
克服……、どうやって克服……、あのぉ……、自信がないので。
(笑)うん。
(笑)アイデアが出すのが怖いので。
はい。
新しいアイデアが怖いんですね。
あぁ。
だから、昔成功したアイデアも入れつつ、新しいアイデアも取り入れつつっていう、こう両方に足をかけながらやっている感じはありますね。
なるほど、なるほど。
だから、あんまりにも新しいことをやりすぎると、まあ、ちょっとわからないので。
はい。
ちょっと戻りつつっていう風にして不安を取っ払いながらやっているイメージですかね。イメージの話ですけど。
はい、はい。それは案の中に古いもの、新しいものを入れるとかいうんじゃなくて、融合させるみたいなイメージですか?
あ、両方あります。
あぁ、はい、はい。
だから、A案、B案で、B案はもうやったことがあるもの、確実なヤツですよね。
うん、うん。
もうやったことあるけど、僕にとってはそんなに発見がないだろうっていうのが例えばB案で、A案はもう新しい、僕自身もやったことがないことを不安だけど「こういう案もありますよ」っていう形で、複数案の中でバランスを取っていくっていうやり方もやることはありますね。
うん、うん。今の話を聞くと、やっぱり不安を、それでも不安に向かおうと思うのは、好奇心とか、新しい発見をしたいとか、新しいことに取り組みたいみたいな気持ちなんですかね。
そうですね。単純に「仕事を完遂させなければならない」っていうことと、あとは、「新しい発見があるかもしれない」っていうちょっとした希望を持ちつつやることが多いですね。
はい、はい。
で、「あ、これ心配だったけどできた。これ、もう次もできるな」っていう風にちょっとずつ積み重なっていく良さはありますよね、確かに。
はい、はい。よく成功パターンに縛られるとかありますけど、やっぱりそれって不安だからこそですもんね、きっと。
そうだと思いますね。
ふーん。
でも、僕は怖がりな方だと思います、すごく。
へぇ、周りを見ててそう思いますか?
ものすごく思いますね。
ふーん。
怖がりで、怖がりで、それでよく失敗もしますけれども(笑)。
例えば。
例えば、だから、これが個人でやっている分には僕だけ心配してればいいんでしょうけど、グループワークになると、やっぱり「もうちょっと自信を持ってくださいよ」になるわけですよね(笑)。
(笑)
「井上さん、もうちょっと自信を持ってやりましょう」ってなってきちゃうので。
言われるんですか? スタッフの方に。
うーんと、「慎重だな」という風にはよく思われていると思います。
はい、はい。
はい。
でも、慎重さがないと、井上さんが手がけられた本っていうんですかね? 造形の本とか見ても、「そんなに丁寧にできないでしょ」ってすごい思います。見てても。
そうですねぇ。
もちろん、簡単なように書いてらっしゃるんでしょうけど。それより何倍もお仕事では丁寧にやってるんでしょうから。
確かに、慎重さが出てるかもしれません、作風に。
だって、めちゃくちゃ丁寧に見えますもん、こっちから見てると。
あれは不安の塊なですよ、ホントに。
(笑)。
そうなんですよ。
なるほどね。
だから、「それがあって、緊張感が保ててるのかな」っていう思いも少しあるので。
はい、はい。
「まあ、まあ、不安がってればいいか」っていう気もしてますね。
それって「丁寧に、きれいにやらないと気が済まない」っていうよりは、不安ってことなんですね?
そうですね。
へぇ。
「ここの小傷が写真に写っちゃったらどうしよう」と思いながら磨いています。
あぁ、なるほどね(笑)。写真に撮ってから修正するみたいなのは考えないんですか?
あ、えっと、まあ、もちろん、そういうこともありますけれども。
うん。
まあ、そういうのを嫌がるカメラマンがいたりとか。
へぇ。
修正不可能な部分があったりとか。
はい、はい。
どうしてもできないなっていうところもあったりとかしますし、「ちょっとこの写真になった後、展示を控えてる」っていう風になったら、結局ちゃんと作らなきゃいけないので、なるべく後修正は考えずにやるってことでやってますね。
なるほどね。今まで2つあると思ってて、作品に対する自信がないみたいなところと、あとは自分の評価みたいなことも自信がなかったりするんですか?
そうですねぇ……、評価については……。
あんまりない?
あんまりないですね。
ふーん。
あのぉ……、評価を気にしたことがそんなにないですかねぇ。
え、すごい。
うん、なんででしょうね、これは(笑)。
「仕事が来なくなるんじゃないか」みたいな不安っていうのは、「評価されないんじゃないか」っていう不安とは違うってことですか?
あぁ、ちょっと違うかもしれないですね、やっぱり。
ふーん、どういうことなんでしょう?
うんと、仕事が来ないっていうのは、まあ、えーとですね、「求められているものに対してちゃんと応えられるか」っていうところですよね。
なるほど。
僕がどうしても欲しい評価って、作家的な評価がどうしても欲しいので、求められたのに対して応えるっていうデザイン的なところじゃなくて、そのアートの部分ですよね。
うん、うん。
だから、その部分に関しては、どう思われようが、自分が納得できるものができれば良いと。例えば、世界で数人だけでもこれを「面白い」って言ってくれる人がいれば、もう全然意味のあるものだなと思いながら作ってるのがアートなんですけど、そっちの評価は、だから、あんまり気にしないかなぁーって、ちょっと話は複雑ですけど、そういう感じはありますよね。
ふーん。じゃあ、アート性のところ、作家性のところの自信と、クライアントワークにおけるニーズに応えるみたいな。
あぁ、そう、そう。
自信が、もちろん、別物としてあって。
そうですね、今話していて気づきましたけど、そこはちょっと分かれているのかもしれません。
どっちが自信がない?
だから、えっと、デザインの方です。クライアントワーク。
なるほど(笑)。
すごく自信がない(笑)。
(笑)。
「本当に言われたことの通りにできるのかどうか、求められていた通り、もしくはそれ以上のことができるのかどうか」っていうことと、これは個人的には問題なんですけど、「この人たちと上手くやって行けるかどうか」っていうところもすごく……。
(笑)。
人間関係的なところも、すごく僕的にはコンプレックスをたぶんちょっと持ってるんでしょうね。
うまくいかないときあるんですか?
あります、あります。だから、歯車がかみ合わないとかってこともありますから。
へぇ。
だから、僕はこうしてアトリエに籠もって作る仕事を選んだんでしょうね。
なるほど。
なかなかコミュニケーションしながらやっていくところに、上手くやっていく、これこそ自信がないというか(笑)。
へぇ、そうなんだ。お話していると全然ね、そんな感じしないですけど。
もう大変です(笑)。
モノづくりってなるとなかなかね、こだわりのぶつかり合いみたいなところもあるでしょうから。
そうですね。それもありますしね。
うん、うん。
それを駆け引きしたりとか。
はい、はい。
妥協点をお互い見つけていったりとかっていう作業ってすごく体力を消耗しますんで。
うん、うん。
なかなかいまだに苦手ですね。
あぁ、そうなんですね。
それもあって、苦手とか、不安とかっていうのがあるのかもしれません。
人間関係も含めみたいな。
そうです。クライアントワークって人間関係のね、あれじゃないですか。
確かに。
かたや、アートとかって、自分の好きなものを作るっていうのは、もう自分だけで完結できることなので、その自信とか評価とかあんまり関係なくできるっていうのが、僕の中の棲み分けですかね。
なるほどね。あんまり、話す前に自信のなさで想像してたこととは、ちょっと確かに方向性が違ったかなとは思いました。だから、自分の作家性みたいなところには、そんなにやっぱり自信がないという感じではないってことですもんね。
そうかもしれません。
うん、うん。それはいいですよね。それはやっぱ……、うん、それはそうだよなっていうのも変だけど。
(笑)うん、うん。
それだけやっぱり自分の作品を自信をもって作ってるっていうことですよね。
そうですね。そこは、段々、何年もかけて明確になってきているところかなぁっていう感じはしますね。
なるほど。ちなみに、どういうクライアントさんだととか、取引先だとやりやすいとかあるんですか?
そうですねぇ……、口出ししない人かなって(笑)。
(笑)。
でも、今、ちょっと言い方悪かったですけど、実際そうで。
うん、うん。
クライアントさんにもスタンスっていうのがあって。
はい。
「俺の言うとおりにやれ」「お金出してるんだから」って言う人と。
うん。
「一緒に良いモノ作りましょう」って言う人がいるんですね、やってて。
うん、うん。
で、「お互い成長しましょう」って。
うん。
同じ方向を向いて、ヨーイドンってしてくれる人。
はい。
はやっぱり良いモノ作りたいと思いますし、良いモノ作らせてくれる環境を一生懸命整えようとしてくれてますし。
はい。
わりと、そこの差は大きいですよね、本当に。
そうですよね。せっかくだって、井上さんに頼むのに、「私の言う通りにして」って言ったら、「意味ないもん」っていうか、「勿体なさすぎるでしょ」って思う。
まあ、そうですね。その方にも事情がおありなんでしょうけど。
そうですね。
「上に言われまして」ってこともあるので。
そうですね。あとはもちろんなんか、「私のやりたいことが技術的に井上さんにしかできない」みたいなことも、クライアントさん的にはあるかもしれないですよね。
あ、そうですね、それもあるかもしれません。
うん、うん、なるほどねぇ。はい、じゃあ、ちょっと最後、何て言うのかな抽象的な話になりましたけど。
はい。
井上さんの中の気持ちが聞けて、あと、素敵なクライアントさん像っていうのも聞けて。
(笑)。
「今後、そういう仕事をお待ちしています」っていう感じですかね。
そうですね、クライアントさんに聞かせられないですね(笑)。
(笑)そうですか?
(笑)。
はい、じゃあ、これで井上さんのゲストの回最後になりますけど、色々ありがとうございました。
こちらこそ、新鮮でした。ありがとうございます。
はい、なんか最後に一言とか言ったら困りますか?
あぁ、そうですね(笑)。なんだろう……、うん、でもね、このコロナが収まってまた私も活動して参りますので、是非どこかで皆さんとお会いしたいなと思っています。はい。
そうですね、新しいタイプの作品がまた出てくるんじゃないかという期待をして。
そうですね、はい。
じゃあ、本当にありがとうございました。
はい、どうもありがとうございました。
以上、栃尾江美と。
パンタグラフ井上でした。
<書き起こし、編集:折田大器>