私が昔からあこがれている、造形作家のパンタグラフ・井上さんをゲストにお招きしました。もともとリアルなモノづくりをする人に憧れがあるのですが(父の影響かな……)、そんな中で、作るもののアイデアと、緻密さと、唯一無二の世界観がとても好きなのです。お話しできて夢のよう……。私が質問したいことをどんどん聞いてしまいました! 緊張しましたがとっても気さくな方で本当に嬉しいです。写真に写っている、後ろのアトリエの様子とかも垂涎ものです。
クリエイティブの。
反対語。
こんにちは、ストーリーエディターの栃尾江美です。このポッドキャストは私、栃尾江美が好きな人やお話したい人をお呼びして、クリエイティブに関することや哲学的なことを好き勝手に話す番組です。えーと、今日はですね、ずっと私がファンだったというか、すごい好きで、全然知らないのにいきなりオファーしたというパンタグラフ井上さんに来ていただいております。
はい。
よろしくお願いします。
よろしくお願いします。初めまして。
初めまして。簡単に自己紹介をお願いしてもいいですか?
はい、私、パンタグラフの井上と申しまして、立体造形の作品であるとか、アニメーションの作品を作って、例えば、Eテレの子ども番組とか、CMとか、そういったところにアニメーション作品を提供したりですね、アニメ―ションのワークショップをしたりとか、最近はアニメーションの展示といいますか、目の前で立体物が動き出すゾートロープっていうちょっと特殊な遊戯装置があるんですけれども、そういったものを制作して展覧会で発表したり、ちょっと幅が広いんですけれども、そういったモノですね、手で作って、何か造形物を作って、それを動かしたり、写真作品にしたりっていう活動をしています。
すごいですよねぇ。
はい、いえいえ。細々と。
Eテレってどんなのをやってるんですか?
あっ、そうですね。
私ちょっと知らないかも。
去年なんですけども、『おかあさんといっしょ』の1つ、お歌をやらせていただいてですね。
なるほど。
はい、そのお兄さん、お姉さんが歌うんですけど、そのミュージッククリップを作ったりとかっていう感じですね。
お兄さん、お姉さんも出てるんですか? 出演してる?
はい、出てます。お兄さん、お姉さんたちはグリーンバックで撮って。
はい、はい。
で、それに合成して、キャラクターを動かしたり、背景を動かしたりっていう、そういうコーナーを作りました。
それ、コマ撮りですか?
はい、コマ撮りですね。
なんかパンタグラフさんってコマ撮りっていうイメージですよね、動画とかも。
そうです、そうです、はい。
全部そうですかね、基本的には。
全部そうですね。手で作って、あるいは手で描いて、それを写真撮影をたくさんして、それを繋げてアニメーション作品にするっていうのが我々のやり方ですね。
はい、はい。
なぜかというと、デジタルとかCGに弱いんですよ。
弱い(笑)。
とっても弱いんです(笑)。
弱いっていうか、なるほどね。デジタルやる人いっぱいいますもんね。
そうですね、気が付けばそうなっていて、僕が小さい頃はそんなのなかったんですけど、いつの間にやら世の中がそうなっていたという感じがしていますね。
うん、うん。私がですね、パンタグラフさんの作品を初めて観たのは、『日経パソコン』。
はい。
の表紙ですね。
はい、描きましたね。
で、私、『日経パソコン』にちょっと書いていた時期があるので。
はい、はい。
で、その見本誌をもらうんですけど、なんかそのこうビジネスビジネスしてるっていうか、「それにそぐわない、このアーティスティックな表紙は何なんだ」みたいな。
あぁ、確かに。
「しかもこれ、本当に作ってるんでしょ、CGじゃなくて」みたいな。
あぁ、はい、はい。
そして、それがすごく、なんか考えさせられるんですよね。
うーん。
例えば、パソコンっぽいキーボードなんだけど、アナログでこう手で描くような出力が組み合わさったりとか(こちら)。
はい、はい。
ちょっと口で言ってもね、全然伝わらないと思うんですけど(笑)。
そうですね(笑)。
そういう、普段の固定観念みたいなものがグニョグニョってされるみたいな。
あぁ、そうですね。
そう。
だから、一言でいうとですね、リアルドラえもんの道具みたいな。
あぁ、なるほど、そうかも。
ちょっと「この道具何だろう。でも、こうやって使うのかな」っていうのを想起させるようなデザインになっているっていうのを手作りで作って、写真に撮ってですね、これアニメーションじゃないんですけど、写真に撮って表紙にしていただくっていうことをやってましたね。
なんかその感じって、本当に唯一無二っていう感じがするんですよね。
あ、そうですか。
他で見たことがない。
あぁ、なるほど、なるほど。そうですね、「他で見たことない」っていうのは、我々アーティストというか、作家的には一番守らないといけない部分だと思うんですよね。他であるとしょうがないですから。ただし、あんまりにも奇想天外すぎると実感が持てないので。
はい。
何かこうリアリティの持てる要素は込めようとはしてるんです、毎回。例えば、「これなんか持てそうだな」って取っ手が付いてたりとか、ボタンが付いてて「ここ回せそうだな」とか。
はい。
なんか手に取りたくなるような要素を必ず込めようという風に考えて、あれはデザインしてましたね。
ふーん。モノによって、きっと色々とね、思考のポイントって違うんでしょうね。
そうですね。
なんか、あとですね、まあ、紹介……、私の興味ばっかり聞いちゃうんですけど(笑)。
あぁ、どうぞ、どうぞ。
ゾートロープをすごいやっぱりやってらっしゃいますよね。
そうですね、ご覧いただいてありがとうございます。
ゾートロープって知らない人に説明するときってどうやって説明すればいいんですか? 見たことない人に。
すごく難しいですよね。
はい。
なので、パラパラ漫画が円盤状に展開された、そのー、アニメーションのおもちゃですよね。
立体物ですよね、うん。
そうです、そうです。で、これクルクル回って、鏡を通して見たり、黒いスリットを通して見たりすると、それがあたかも動いて見えるような。
うん、うん。
パラパラ漫画がこう、ちょっと機械になったようなそういう装置なんですけど。
はい、はい。
元々は、ただのおもちゃではなくて。
ふーん。
本当に、もう200年ぐらい前にこれは発明されたものなんです。
はい。
昔の人がすごく頑張って連続写真を撮れるようになったんですね。
あぁ、はい。
それをどうにかして繋げて、動かしてみたいという風になったときに、それが発明されて。
なるほど。
そうです。ゾートロープが発明されて、それが発展して映写機になって、映画になって、テレビになって、今の映像文化に繋がっているっていうそういう、一番元々の、映像の元になったものなんです。
じゃあ、当時は写真みたいなものだったってことですか?
あ、そうですね。当時は、白黒写真で、それを繋げて、動く絵を楽しむっていう装置だったはずですね。
そっから、じゃあ、ホントのリアルな映像の方と、立体の方に分岐したみたいなイメージなんですかね?
えーと、そうですねぇ……、分岐というか。
分岐っちゅうか、進化っていうか。
そうですね、そういう流れもあったかもしれませんね。
へぇ。それをすごく作ってらっしゃるのは、どういう意味とか、考えとか。
そうですね。ゾートロープは、そうなんです、ここ7年ぐらいずっとやってるんですけど……、うーんと、そうですね、何がきっかけだったのかな。まあ、学生時代に作品として作ったことがちょっとだけあったんですよね。
ふーん。
学生時代っていうのは、美術大学で、僕はちょっと映像をやろうかなと思って、その映像などの研究をしたり、作品を作ったりしていたんですけど。
はい。
ゾートロープっていうものがあるっていうのは、もちろん皆知ってることだったんですけれども。
うん、うん。
作ってる人がそんなにいないということだったりとか、過去にすごく良い作品を作ってる先輩がいらっしゃったとか、まあ、そういったきっかけがあって、ずっと気にはなっていたんですけれども。
うん。
なかなか作る機会がなかったんですよね。やっぱりそれをお披露目する場がそうそうないので。
確かに。
そうなんです。作る機会、お仕事で作る機会とかもあんまりなかったので、ずっとノータッチだったんですけれども、あるとき美術館とか、科学館ですね。沖縄の科学館から、「ちょっとゾートロープ作ってくれないか」。それは「コマ撮りアニメーションやってるから作れるだろう」っていうことで、お声かけていただいたんですけども。
へぇ。
そうなんですよ。「コマ撮りアニメーションのノウハウを使ってやってくれ」と。で、「昔やってたからやってみようかな」と思って作ったら、わりと評判がよいというか、自分たちも楽しめて、見る人にもすごく喜んでもらえたっていうものが作れたんですね。
はい。
まずは、それがきっかけで作り始めました。
ふーん、じゃあ、偶然っていうか。
はい。
元々やってたところに、偶然オファーが来たっていう。
そうです、そうです。偶然でしたね。
へぇ。
だから、すごくありがたいなと思って。
それで、オファーベースではなく、自分からもいっぱい作ってるっていうことですか?
そうですね、えっと、半々ですね、確かに。
ふん、ふん。
オファーがあって科学館、美術館に作るっていうことと、やっぱり研究と言いますか。
研究。
研究ですね(笑)。「こう作ったらこう動くのかな」というものをちょっとやってみようかなという興味があってやるっていう、まあ、本当に作家活動って言えるものだと思うんですけど。
はい。
そういう風な作り方……、ちょっと脳みその使い方が全然違うんですけれども、やっぱりオファーを受けてオーダーで作るっていうのと、コソコソ自分だけで作るっていうのと。ちょっとこう二本立てでやってる感じですね、最近は。
へぇ。確かに研究っておっしゃいましたけど、唯一無二のことをやっているっていうことで、自分でその手法とかもね、色々編み出していかないと全然発展していかないから、本当に研究っていう言葉はまさにその通りだなと思うんですけど。
はい。
想像するだけですけどね。
いえいえ。
それで、その脳みその使い方が違うっていうのは、どんな風に違うんですか?
やっぱりオーダーを受けて作るっていうのと、自分の中の心の声だけを頼りにいくっていうのとでは、わかりやすく言うと、本当にデザインとアートの違いというかですね。
なるほど。
クライアントがいて、お互いこう許せるところの着地点を探しながら作るっていうのと、そういうのをまったく取っ払って、マーケティング要素もまったくなしで、「売れる」とか「売れない」とか、極端にいうと「面白い」「面白くない」も取っ払った中でやるっていうのとですね、その違いがあるんじゃないですかねって思います。
へぇ、もう……なるほどねぇ、その……やっぱりアート側については、苦悩みたいなものはあるわけですか?
うーんと、そうですね、アート側については苦悩っていうのは僕はそんなにないですね。
へぇ、楽しいばっかりですか。
いや、うーん、「謎」ばっかりですね。「?」マークばっかりで、「これ上手くいくかなぁ、でも、上手くいかなくてもいいや」っていうのがそのアートの、アートと言いますか研究の方の良いところというか、もう気軽にやっている感じはあります。
なるほどねぇ。
「ダメだったらこれやってみよう」、「これダメだったらそれやってみよう」とか。わりと、その気軽にやって。ただし、それをクライアントワークでやると、ダメって言われちゃうので(笑)。
そうですよね。
必ず答えを出さなきゃいけなかったりとか、期間内に作らなきゃいけなかったりとか、求められたものをしないといけないので、まったく違う進め方ですね。
へぇ。
作品作りとしては。
それっていわゆるデザインとかをやっている人にとっては、何て言うか、すごく夢のような環境じゃないかと思うんですよね。
あぁ、はい、はい。
クライアントワークもやりつつ、自分が作りたいものも作るっていう。その作りたいものを作るっていう方は、なんかお披露目したりとか、お金に変わるとか、そういうことはあるんですか?
そうですね。えーっと、そのアートとデザインっていう風に分けましたけど、まったく無関係ではなくて、やっぱり研究をして、「あっ、こんな風に動くんだ」っていう発見が偶々あったとします。
はい。
それがすごく活かされるんですね、やっぱりデザインの方に。
クライアントワークの方に。
そうです。クライアントに「こういう表現もありますよ」って提案できるんで、やっぱり引き出しはどんどん増えていくからいいかなと思うんですよね、すごくね。
なるほど、なるほど。そういう風に間接的にじゃないですけど、後々役に立つっていうことなんですかね。
すごく役に立ちますね。
はい、はい。でも、そこを目指しているわけでもないけれどっていうことですか?
そ、そうですね……。
へぇ。
あ、そこを目指して、そうですね、うーん。これがまた難しいところで、デザインのやり方にも、アートのやり方にも、どっちにも一長一短があって。
はい。
なんていうんでしょうね、例えば、デザインだと、極端にいうと、「言われた通りに作る」「オーダーされたから作る」っていうことでわりと制限があるというか、押し込められているような感じはあるんですけれども、絶対にそれに応えなきゃいけないので、クライアントに対しては。なので、無理して研究するんですよね。自分が興味のない分野にもチャレンジしていかなきゃいけなくて。
あー、はい、はい。なるほど。
そうすると、こう引き出しが無理矢理でもグーッといっぱい広がっていくと、たくさんになっていくっていうことで、あの、なんて言うんでしょう。自分が好きだから、自分の興味のあるところだからっていうことだけでやっていること以外の要素がですね、どんどん増えていくなっていう、そういう利点もありますね。
へぇ。それでも本当に会社でいう研究開発みたいなのとすごい似てますよね、考え方的に言ったら。
あぁ、そうか、そうか。そうかもしれないですね。
うん、ちょっと時間の投資じゃないけど。
そうですね。あの、実は、そんなにできないんですよ、その研究とかって。
はい。
なかなかできずに、それがずっと悩みだったんですけれども、実はやっぱりこの数か月間の、これ(新型コロナ問題)のおかげでっていうとまあ、これで大変な目に合われている方もいるのでアレなんですけど、誤解を恐れずに言うと、ホントこの期間のおかげで、いろいろ試せたりとか。
はい。
いろいろ発見があったりとかっていうことが、すごくわかったので。普段も、これが日常に戻ったとしてもですね、ちゃんと時間を作って自分の研究をしなきゃいけないなっていう反省をしてるところです(笑)。
私もこの自粛期間っていうんですか。この期間にですね、モノづくりっていうのは、すごい発展するだろうなって思ってたんですよね。
あぁ。
作る人はこの時期にもうここぞとばかりに作るだろうって思ってたんで。
うん、うん。
じゃあ、これから井上さんの新しい、新しい何かが見れるチャンスが増えるかもってことですよね。
そうかもしれないんですよね。だから自分でもすごく貴重な期間だったなって、ちょっとこれが終わるのかまだわからないですけど。
そうですね。
はい。
そうなんですね、楽しみ。はい、じゃあ、ちょっと紹介というより、私の興味ばっかり聞いてしまった感じですけど(笑)。
嬉しかったです。
1回目はこれで終わりにしたいと思います。以上、栃尾江美と。
パンタグラフ井上でした。
<書き起こし、編集:折田大器>