【読むPodcast】#252 高専でどんなことを教えていますか?(ゲスト:おがぢさん)


高専で倫理の先生をなさっているおがぢさんに、どんな授業をしているかお伺いしました。知識がないと対話の場に着けないといったことから、ジェンダーの話にも移っていきます。

栃尾

クリエイティブの。

おがぢ

反対語。

栃尾

こんにちは、ストーリーエディターの栃尾江美です。

おがぢ

こんにちは、おがぢです。

栃尾

このポッドキャストは私、栃尾江美が好きな人やお話したい人をお呼びして、クリエイティブに関することや哲学的なことを好き勝手に話す番組です。先週? ちょっと途中っぽくなっちゃったので、またその高専の教育とか、その周りのことについて引き続きお話できればなと思うんですけども。

おがぢ

はい、前回、最後ちょっとお話しかけたところはもう少し私も話したいな、考えたいなと思っているところで。

栃尾

はい、嬉しいです。

おがぢ

ありがとうございます。

栃尾

はい。

おがぢ

なんかこう、考えることを哲学対話とか、倫理の授業では、やっぱり「考えることが大事なんだ」っていう風に言うんですけど、これは教育だけじゃなくて大きい社会の問題になっちゃうのかもしれないけど、やっぱり「考えてもしょうがない」っていうような問題も確かにあるかもしれないし、栃尾さんもおっしゃってたけど、「自分ひとり考えたり、本気で考えても、まあ、社会は変わらないから」っていうような諦めだったり、あるいは「自分の身の回りのことが幸せで楽しければそれでいっかな」みたいな感覚だったり。

栃尾

うん、うん。

おがぢ

すごくわかるし、それは否定すべきことじゃないんだけど、やっぱり「それで終わりたくないな」というような感じをすごく最近持っていて。

栃尾

うん、うん。

おがぢ

そうですね、そういうものにどう立ち向かっていくかっていうことが、ひとつ大事かなと思っているという話が1個と。

栃尾

はい。

おがぢ

もう1個は、一方で、やっぱり下手をすると私のような授業は「考えることが大事」というメッセージを強く発することによって、「知識は後回しでよい」という立場を強調することにもなりかねないかなという風にも思っています。

栃尾

うん、うん。

おがぢ

このPodcastでもお話してきたように、「哲学する」っていうことと、「哲学の知識、哲学者の思想を学ぶ」っていうこととの関係が、やはり少し捻じれているというか、複雑なように……、「必要なことはGoogleで調べれば良いのであって、後は考えることが大事」みたいになっていく、「自分の力で考えることが大事」っていうことを教えることにもなりかねないのですが。

栃尾

うん。

おがぢ

えっと、やっぱり方向性を……適切な知識や専門知識を学ばずに自分で考えていくと、ともすればすごく極端な、間違っていると思わざるを得ないようなことを考え、結論に達してしまうこともあるので。

栃尾

そうですね。

おがぢ

その、考えることと、知ることのバランスっていうことも含めて、教育をしていく側として、どういう風に伝えていったらいいかな、知識一辺倒もやっぱりダメ……、時代的にもダメだし、面白くもないなって思うんですけど、そのバランスっていうことをすごく思って、日々過ごしています。

栃尾

そうですねぇ。でも、なんだろう、「知識が大事っていうのは他の教科でやってるし」みたいに思いませんか?(笑)

おがぢ

あぁ、それも思いますね(笑)。今、個人的な課題ですけど、やっぱりちょっと自分の授業だけで完結させようと思うとそれはうまく行くわけがないので。

栃尾

うん、うん。

おがぢ

まあ、あと、他の先生たちとコラボレーションしたりとか、役割分担をしたりとか、一緒にお話しをしながら授業して行くっていうことが、おっしゃる通りで、大事だなっていう風には思っていますね。はい、その通りかなとも思います。

栃尾

そうですね、そう、そう。だから、結局、今の子供たちにとって、まあ、私が思うに、考えることが足りていないと思っているので、それをまあ、極端におがぢさんが「考えることが大事だ」みたいに、「あの先生、あのことしか言ってなかったな」みたいに子供に思われたとしても、「たくさんいる先生の中の一人がそう言ってたな」っていう感じで、強いぐらいでも足りないぐらいなんじゃないかなって私なんかは思いますね。

おがぢ

そうですね、ありがとうございます。一方で、高専っていう空間だからっていうのもありますけど。

栃尾

はい。

おがぢ

例えば、さっき言ったような生命倫理とか、ジェンダーとか、差別とか、環環問題とか……、環境問題は、他の先生もやるけど、ジェンダーとかの問題について授業で取りあげる人は私ぐらいしかいないので。

栃尾

ふーん。

おがぢ

えっと、私の授業で1回とかでしゃべりきったことが基本的に知識のすべてになっちゃうっていうようなことがあります。

栃尾

はい。

おがぢ

そこでどれぐらいのことを教えるべきかっていうか。例えば、あんまり触れず、あんまり講義をしないままに、哲学対話っぽい話にジェンダーとかの話で移ると、「もう現代は男女平等なので、特に問題を感じない」とか、そういうような発言が授業の最後の感想とかで来たりとかするわけです。

栃尾

うん、うん。

おがぢ

それに応答する……、次回は次のテーマをしなきゃいけないので(笑)。

栃尾

(笑)。

おがぢ

応答する時間がなかったりして、そのまま終わってしまうとすると、いやもう、少なくとも私の認識では、「もう平等だからOKという風にはなっていない」っていうことを90分かけて、訥々と説明する必要があるかなと、考える以前に、認識をすり合わせないといけないかなとかって、うーん……、思う……

栃尾

確かに。

おがぢ

こともあって、それをやっていくと考える授業なんか入れる隙間がないぞっていうような。

栃尾

(笑)。

おがぢ

気にもなる。

栃尾

なるほどねぇ、確かにジェンダーのことって私も全然平等なんじゃないかと思ってた口なんですよね。

おがぢ

うーん。

栃尾

それで、最近になって、「あ、これも、これも女性だから我慢してたんだ」みたいなことが後から気付く。だから当たり前すぎて、ガラスの天井ってよく言いますけど。

おがぢ

うん。

栃尾

全然見えてないんですよね。それを突き抜けられないことは知ってるけれど、「天井あったんだ」みたいな感じで、だから、当たり前すぎて気付いてないから、それもやっぱり確かにそういうのは言われないとわかんないし、考える土俵に乗れないっていうのは、ありますね。その、普段考えてなければ考えてないほど。

おがぢ

そうなんですよね、やっぱりこのあたり……。

栃尾

それはまあ、思います。

おがぢ

なんかバランス……、こまかい話ですけど。

栃尾

(笑)。

おがぢ

バランスやっぱり難しいなっていつも思っています。ジェンダーの話題が出たので、やっぱりこの話題は高専っていう教育機関でやる上では、私はすごく今後、力を入れていかなきゃいけないかなと思っていて。

栃尾

へぇ。

おがぢ

なぜかっていうと、高専っていうのは、工業系の勉強するところというのもあって、男子学生の比率がすごく多い空間です。

栃尾

はい。

おがぢ

8割ぐらい男子学生が占めていて、で、学科の編成にもよるんですけども、私が担任しているクラスであれば、例えば、女子学生は4名かな、43人いる中で女子学生4名みたいな空間で過ごしているので。

栃尾

はい。

おがぢ

男子学生たちの過ごしやすい雰囲気っていうものが当然教室には形成されていくと思っていて。

栃尾

うん、うん。

おがぢ

まあ、それが当たり前になって過ごしていくっていうことが、普通科高校とかよりもやっぱり起きやすいかなと思っていて。

栃尾

ふーん、はい。

おがぢ

えっと、で、かつ、そういった学生さんたちが出ていく職場っていうものも、技術系の職場なので、男性優位というか、男性の数自体が多い職場になっていて、そこにある不平等っていうものが、先程栃尾さんが仰ってたみたいに、当たり前のものとして見なされていくっていう社会に、典型的に作られやすい空間なんじゃないかなと思っていて、だからこそ、男性が優位になりやすい空間だからこそ、そういった視点っていうものを特に男性、男子学生が持っていくっていうことも重要だし、女子学生も、栃尾さんが仰ってたみたいに、こういう空間だから自分たちが我慢するのは、我慢だとも思わずに当たり前っていうのではなくて、ここには別に個々人のせいじゃないけれど、構造的にやっぱり不平等な構造があるよっていうことは言っておく必要があるんだろうなっていうのは、強く感じています。

栃尾

うーん、確かに男性が変わらないと変わらないですもんね。

おがぢ

そうですね、男性が多いクラスで男子が過ごしやすいように気楽に過ごすっていうのは、まあ、そりゃあ、変わるような、強い働きかけとか、意識の変化がないと変わらないですよね。

栃尾

そうですね、そうだなぁ。でも、私、なんか女性で損したなっていうことって、夜道が怖いとか。

おがぢ

うん、うん。

栃尾

怒られると怖いとか。

おがぢ

うん。

栃尾

なんか差別的なことよりも、どうしようもないことだったりするんですけどね。力が弱いみたいな。

おがぢ

うん。

栃尾

うん、うん。で、男性……、だから、大学のときには、男性が多くて、女性が少ない環境にいましたけれど、それ自体はなんか不利だったかっていうと、全然……、その後も、男性が多めの職場に入りましたけど、それもあんまり感じてなかったんですけど、でも、やっぱりあったのかなぁ。

おがぢ

その、特に高専でっていうことでもう1個思うのは。

栃尾

はい。

おがぢ

その技術とか、新しいモノを生み出すような。

栃尾

あぁ。

おがぢ

アウトプットをしていくような立場にある人たちなので。

栃尾

確かに。

おがぢ

男性が中心で何かモノを作ると、女性にとって必要な使いやすさとか、目線っていうものがなくなっていくっていう部分は例えばよく、最近は言われているようで。

栃尾

確かに。

おがぢ

技術自体が、技術が作られていくもの自体がジェンダー性を帯びてしまうというか、不平等性を帯びてしまうっていうような視点っていうものがたぶんあると思っていて。

栃尾

うん、うん。

おがぢ

まあ、左利き用のハサミがやっと出て……、やっとっていうか、こう……、必要性みたいなところで、右利きの人だけがハサミを作ってたら気付かないみたいなこととたぶん似ていて。

栃尾

はい。

おがぢ

その、新しい社会に、うーん……、あまり好きな言葉じゃないけど、イノベーションを生み出すとか、新しい創造的なモノを生み出すっていうときにも、今まで男性優位だったところに、しっかりジェンダーバランスが取れる空間になるっていうのは、新しいモノを生み出すっていう意味でも必要なんだろうなとか。今までは、実は誰も気づかないけど、ジェンダー不平等なモノづくりがなされていたとか。

栃尾

うーん。

おがぢ

まあ、そういうことも技術に携わる空間だからこそっていう視点ももう少し取り入れて、私も勉強しながら、授業に反映できたらなって、今勉強しているようなところですね。そういった視点も。

栃尾

確かに。具体的に何かありますかね? 私、結構、ガジェット好きなんですけど、マウスとか好きなんですけど、デカいんですよね。

おがぢ

あぁ、なるほど(笑)。

栃尾

(笑)。

おがぢ

確かに、そういうのもありますよね。

栃尾

そういうのは思います。でも、小っちゃいのを作ってもちょっとしか売れないから、結局、女性の立場になったとしても、その利益率とか考えると作れなかったりするのかなとも想像しますけどね。

おがぢ

そうですね。

栃尾

でも、そういう想定も入れて、やっぱりやめたっていうのと、最初から想定しなかったって別物ですもんね。

おがぢ

そうですね、おそらくよく言われるのはシートベルトとかって。

栃尾

はい。

おがぢ

こう、人間の何か事故があったときに命を助けるためにやるんだけれども。

栃尾

あぁ。

おがぢ

シートベルトの実験っていうのは、基本的に男性の身体っていうものを守る想定で作っていて、妊婦がシートベルトをしたときには、実はお腹の赤ちゃんにとってはすごくシートベルトをしてるほうがリスクが高いっていうような結果がある時期出たらしくて。

栃尾

へぇ、はい。

おがぢ

つまり、妊婦がシートベルトを使うっていう想定が頭から抜けていて、やっぱり大事故につながる訳じゃないですか?

栃尾

うん、うん。

おがぢ

みたいな意味で、やっぱりそういう視点がしっかり入ってこないと困るとかっていうこともあると思いますね。

栃尾

なるほど、それ、でも、女性でも気付かないですね。

おがぢ

そうですね、なので、女性が単に入るっていうよりも、そういうジェンダー的な視点でものを作るっていう、まあ、視点を男性も女性も獲得していくっていう事態が必要なんだろうという風には思いますね。

栃尾

追加する、はい、はい。

おがぢ

たぶん、今は、この例えば新型コロナウィルスのワクチンとか、男性にも、女性にも同じように治験っていうか、をしてデータを出したりすると思うんですけど、おそらく、こう、「そもそも男性と女性で薬の効き方が違うのではないか」みたいな、例えば、視点みたいなものももしかしたらある時期まではなかったかもしれないし。

栃尾

うん、うん。

おがぢ

そういうような気付きっていうもの自体が、まあ、科学にとってはそんなに男性も女性も関係なく人間とかって見ていた視点、時代があったと思うので。

栃尾

はい。

おがぢ

そういったものを少しずつ更新していくっていうことは、まだまだ、これからの作業もあるんじゃないかなという風に思います。

栃尾

確かに、そのシートベルトの例とか全然、自分でもね、気が付かないですね、なんで、全部男性の人形なんだみたいなのってね。

おがぢ

うん、うん。

栃尾

当たり前になっちゃってるんですね、女性の方も。

おがぢ

そうですね。

栃尾

そういうのも、だから、作る側の人が常に意識してたら、全然違うモノづくりになりますね。

おがぢ

そうですね、で、そのマウスのもう少し小さいほうがいいとかも、確かに価格とかを考えると難しいかもしれないけど、少々高くても必要な人には届くかもしれないし、まあ、新しい商品になることは確かなので、そういうものが出来ていくっていうこと自体は、まあ、こう、発想としてやっぱり必要なんじゃないかなという風には思いますね。

栃尾

なんかあまりにこう、男女で分かれたりするじゃないですか、小学校って、「女子こっちに並んで、男子こっちに並んで」みたいな。アメリカにはそういうのすらないっていうのを聞いて、そういうのから、当たり前になっている、男女分かれているっていうのを刷り込まれていくんだなっていうのをすごく感じてますね。

おがぢ

そうですね。

栃尾

だから、まったく気付かない。女性なのに。

おがぢ

できれば、そういうところを、学校にいるうちに身近に体験したりとか。最近、よく変わってきているところは、制服が例えば女子、まあ、男子も女子もスカートもスラックスも選べるようになるとか、そういうところから、気付いたり、実感したり、実際に変えられることに気付いたりとか。考えてもしょうがないっていうような諦めって、考えても変わらないっていう諦めだと思うので。

栃尾

はい。

おがぢ

みんなで考えて、気になるから話し合ってみて、学校に言ったら制服が変わったとかね、そういうところから、本当は、学校にいるうちに体験してもらえると、そういう視点って、そのまま、何かを変えたりとか、生み出したりすることにつながるんだなっていうような学びに出来たらいいのかなって思うんですけどね。

栃尾

(笑)確かに。

おがぢ

まあ、それ教員が働きかけて変えちゃうと、それ何も変わらず、違うので。あんまりこっちが言い出すことじゃないんですけど、そういうような体験も学内でできたらいいんじゃないかなって思うんですけど。

栃尾

それこそ、対話に戻りますけど、考えるだけだと気付かない、なんか隠れてしまっているところっていうのは、まあ、対話で別の人の「僕もスカートを履きたいんだ」みたなことを聞けば生み出せるっていうか、気付くことはできますね。

おがぢ

そうですね、やっぱり今話してきたような、ジェンダーの話も、具体的な話も、それを皆で対話的に考える場で、仰る通り出てきたり、アイデアに気付いたりとか、誰かが1人言い出せば、「実は私もそう思ってた」とかっていう風にして、大して反対意見なんてなかったことがそこで明らかになるとか、なんか皆、慣例だからそれやってるだけで、別に女子がスラックス履くことに反対の人は多分いないから、本当はいないのに、なんか慣例だったっていうことが、話し合ってみて、対話の俎上に載せて気付くことっていうのもたくさんあると思いますね。

栃尾

そうですね、はい、今回もなんか面白かったです。はい、じゃあ、そろそろお時間なので終わりにしたいと思います。

おがぢ

はい。

栃尾

以上、栃尾江美と。

おがぢ

おがぢでした。

<書き起こし、編集:折田大器

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