【読むPodcast】#220 極端な二面性をどう使う?(ゲスト:パンタグラフ・井上さん)


理系出身のライター(文系)という栃尾です。ゲストのパンタグラフ・井上さんも、いろいろな二面性をお持ちだそう。「物理 vs 芸術」とか「アート vs 体育会系」とか。私は「どっちつかず」で苦しんでいましたが、井上さんは「どう使おうか」という観点でいたためか、苦しさはなかったのだとか。離れている特性は、離れているほど武器になるような気がします!

栃尾

クリエイティブの。

井上

反対語。

栃尾

こんにちは、ストーリーエディターの栃尾江美です。

井上

造形作家のパンタグラフ井上です。

栃尾

このポッドキャストは私、栃尾江美が好きな人やお話したい人をお呼びして、クリエイティブに関することや哲学的なことを好き勝手に話す番組です。再び、井上さんお願いします。

井上

はい、よろしくお願いします。

栃尾

はい、えっと、井上さん私のポッドキャストを結構聞いてくださったということで。

井上

はい。

栃尾

似たような悩みが。

井上

そうですね。

栃尾

あったとお聞きしたんですけど(笑)。

井上

そうですね、とっちーさんがおっしゃられていた二面性についてのお話で、僕も「あぁ、そういうことがあったのか、僕も共感できるな」という部分があって。

栃尾

うん。

井上

例えば、文系と理系ということだったんですかね?

栃尾

はい、はい。

井上

ですよね。僕も理系だったんです。

栃尾

あっ。

井上

理系で、物理大好きで。

栃尾

えっ、そうなん……、でも、造形って確かに物理と関連してますよね、たぶん。

井上

そうだと思うんですけどね。

栃尾

うん、うん。

井上

で、そういうことがあったり。

栃尾

うん。

井上

僕、大学で。

栃尾

はい。

井上

体育会の野球部にいたんですけど。

栃尾

えー、すごくないですか(笑)。

井上

ってなりますよね?

栃尾

なる、なる。

井上

僕にとって全然普通なんですけども。

栃尾

はい、はい。

井上

野球がすごく好きで、今でもやってるんですけども。

栃尾

へぇ。

井上

そういう野球部とかに所属していると、どっちも異端児扱いになっちゃうんですね。つまり、芸術学部でお勉強してるとですね。

栃尾

うん。

井上

「えっ、井上君、体育会の野球部にいるんだ、すごいね……」ってなっちゃうんですよね(笑)。

栃尾

「僕と分り合えないね」みたいな(笑)。

井上

そう、そう。で、野球部で練習してると、「井上君って芸術学部なんだね」ってなっちゃう(笑)。

栃尾

(笑)。

井上

「芸術やってるんだね」ってそっちでも異端児になっちゃうということで、わりと、そういう全然違う対極にある両方をやっちゃうっていうことが僕、結構あるっちゃあるんです。

栃尾

うん、うん。

井上

例えば、今、メディア・アートみたいなところで作品を発表したりしてますけど。

栃尾

はい。

井上

今、趣味で、お能をやってるんです。

栃尾

へぇ。えっ、舞台に上がるやつ?

井上

舞台に上がるやつです。

栃尾

はい、はい。

井上

つまり、お謡を謡ったり、獅子舞を舞ったりですね、着物を着て。つまり、能楽堂でやるやつですね。

栃尾

ふぅーん。

井上

そういう世界にいると。

栃尾

はい。

井上

先生についてやってるんですけども。お稽古していただいたりとか、発表会があったりとか。

栃尾

へぇ。

井上

お扇子持って、着物着てやってるんですけども。

栃尾

うん。

井上

先生はですねいつも、「世の中、なんでこんなに新しいものばっかり評価されるのかわかんない」って嘆いておられるんです。

栃尾

なるほど(笑)。

井上

「それ、もう、まさに私のことです」って思いながら、お稽古受けてるんですけども。

栃尾

はい(笑)。

井上

全然こう違うものを触れていくっていうことを、それに限らず時々やっちゃうことがよくあるんですよね。

栃尾

それって苦しいですか?

井上

うーんと、苦しくは僕はなかったんですよ。逆に、どっちかに逃げれるっていう感じで、逃げ場だったんですよね。どっちも逃げ場があって。

栃尾

なるほど、なるほど。

井上

はい、なので、僕にとっては心地よい二面性と言いますか。

栃尾

ふーん、なるほどねぇ。

井上

そうなんですよ。今、草野球やっていたりすると。

栃尾

はい。

井上

普段、アート関係、デザイン関係ばっかりの方としか話はしないんですけども、野球に行くとですね、週末に。一般的な普通……、普通というとあれですけど、の人たちと話をするわけですよね。

栃尾

はい。

井上

全然、アートとかデザインに興味がないんですよ、皆さん。悪いんですけど。

栃尾

うん、うん。

井上

「でも、やっぱりこの人たちに届かないとダメなんだろうな」と思いながらそういう交流をしていると、「為になることはいっぱいあるな」と思いながら、そういう行ったり来たりをしています。この世界とあっちの世界を行ったり来たり(笑)。

栃尾

なるほど。野球関係っていうか、スポーツ関係でいうと、私も今はちょっとお休みしていますけど、ママさんバレーやってるんですよ。

井上

へぇ、そうなんですか。

栃尾

そう。確かにね、誰もツイッターなんかやってないし。

井上

あ、そうですか。

栃尾

そうそう(笑)。

井上

へぇ。

栃尾

そうですね。ウェブも全然見ない人もいるし。

井上

あぁ、そうですか。

栃尾

まあ、アートとかもあんまりね……。

井上

うん、うん、うん。

栃尾

ないんだろうなっていう感じですけど、確かにでも人の意識ってのはこれぐらいなんだと。

井上

うん、うん、そう、そう。

栃尾

一般的には。そういうのをなんか立ち戻るっていうか。

井上

あ、そうですね。

栃尾

そういうのは、確かに役に立ちますね。

井上

そうですよね。

栃尾

うん、うん。

井上

うーん。

栃尾

でも、なんだろう理系と文系とか、あと物理と芸術とか、わかんないですけど。

井上

うん。

栃尾

そういうのでいうと、私はなんかどっちつかずみたいな感じで、ちょっと苦しかったんですよね。

井上

あぁ、そうですか。

栃尾

うーん。

井上

苦しかったんですねぇ。

栃尾

苦しかったんですよね。

井上

あぁ。

栃尾

自分、なんかどっちかを極めないと、どっちかに絞らないと、ひとかどの人になれないんじゃないかとか。

井上

それはあります。

栃尾

あります?

井上

少しありますね。

栃尾

(笑)うん、うん。でも、どっちも活かせてるって感じなんですかね? 井上さんの場合。

井上

うーん、僕の場合、そうですねぇ。「ここに新しい世界があるかも」と思ってしまうことはありますね。

栃尾

うん、うん。

井上

例えば、えっと、僕アニメーション始めたきっかけというか、コマ撮りアニメーション始めた「これがきっかけかな」と思うのが、野球が好きすぎて、高校時代。野球のバッティングフォームとかピッチングフォームありますよね。

栃尾

はい。

井上

それの連続写真を見るのが大好きだったんです。

栃尾

人のですか? 自分の?

井上

あのぉ、人の……、プロ野球選手の。

栃尾

へぇ、はい、はい。

井上

「この人はここで肘を上げるんだ」とか。

栃尾

なるほどねぇ。

井上

「ここで手首返してるんだ」とかっていうのを見るのが大好きで、それをパラパラ漫画に描いてたんですよ、自分で。

栃尾

はい。

井上

これってスポーツでもあるし、芸術でもあるなと思って。

栃尾

はい。

井上

なんかこう、「この2つ繋がらないかな」とか思いながらやっていたのを思い出していました。

栃尾

はい、はい。

井上

で、何て言うんでしょう……、そのスポーツの世界でも、今はだいぶ融合してきてますけど、芸術と。

栃尾

はい。

井上

例えば、プロ野球がすごくショーアップされてきたりとか。

栃尾

うん。

井上

ユニフォームがすごく凝ってきたりとか、ファンサービスがすごく盛り上がっていたりしますよね。

栃尾

はい。

井上

そういうものに、今はもう繋がっていってるんですけど、当時は全然分かれていた部分で、なんかこう思ってたんですよ、僕。スポーツの、例えば、「球場に行ってなんかショーができないか」とか、「デザイン的にもっとできないかな」っていう風に考えていて、大学を卒業してすぐ12球団に就職活動をバァーってかけていた時期もあってですね。

栃尾

えっ、そのデザイン方面でってことですか?

井上

あ、そうですね。球団事務所です。

栃尾

はい、はい。

井上

球団事務所に、ちょっとこれはもう無鉄砲で恥ずかしい話なんですけども、「自分がこうやってこういうデザインをします。こういう展覧会を学生時代ですけどしてきました」っていうポートフォリオをですね、どうにかして読んでもらおうと思って12球団にこう……

栃尾

すごーい。

井上

送ってですね、やっていったことがありましたね。やっぱりダメでした、全然。

栃尾

ダメでした? まだ早すぎたんですね、きっと。

井上

うーん、どうなんでしょう(笑)。まあ、そういう、そこが融合していない時代だったですかね。だから、そこが今はすごくショーアップされてきたので、見てて楽しいですけどもね、自分も。

栃尾

でも、そういう風に若い頃からちゃんと異質のものを組み合わせるとか、そういう意識があったんでしょうね。で、自分で土俵を作ってくみたいな。

井上

あぁ、そうですねぇ……、なるほど、そう言われてみると、ちょっと、まあ王道を行くのではなくて、なんかこう付け足して少し違うものにならないかなとかっていうことはなんとなく意識していたのかもしれませんね。

栃尾

そうですよね。私はたぶん、「元々ある土俵で、道で、勝負しなければいけないのだ」みたいなことを勝手に考えちゃっていて、ここの土俵でまったく使えない、例えば、理系の文脈で、システムエンジニアっていう文脈で全然使えない「小説が好き」みたいなのってなんの役にも立たないみたいな思考回路だったんだと思います。

井上

あぁ、なるほど、なるほど。

栃尾

だけど、たぶんそこの両方が活かせるような土俵を新しく見つけるとか、つくるみたいな意識があんまりなかったんだと思うんですよね。

井上

なるほど、なるほど。

栃尾

だからそこら辺が違うんだろうなって今聞いてて思いました。

井上

そうですか。

栃尾

そういう意識っていつ頃芽生えたとかありますか?

井上

どうかなぁ……。

栃尾

うん。

井上

うーん、まあ、さっき言いましけども、やっぱり野球とアニメーションが被ったとき。

栃尾

うん、いつ頃ですか?

井上

高校ですね。

栃尾

へぇ。

井上

高校時代にちょっと野球にハマって、パラパラ漫画にもハマってっていう時期に、「これ、全然混ざるじゃん」って思ったことがありますね。

栃尾

すごいなぁ。

井上

もちろん、それが何か明確に成果物になっていったわけでは全然ないですけれども、「なんか可能性があるんじゃないかなぁ」という風にはぼんやり思ってましたね、その頃は。

栃尾

昔から、絵を描いたりとかモノをつくったりは好きだったんですか?

井上

そうですね。工作が好きだったりとか、パラパラ漫画好きだったりとかですね。

栃尾

うん、うん。

井上

でも、それも特別、すごく好きというわけでもなくて普通に好きな。

栃尾

うん、うん。

井上

普通の学生でした。

栃尾

でも、そこでパラパラ漫画と野球がつながった瞬間が何か、ずっと後になって花開くっていう感じですよね。

井上

そうですね。何が本当に役に立つかまったくわからないですね。

栃尾

ホントに、スティーブ・ジョブズが言ってた「点と点がつながる」みたいなことなんでしょうね。

井上

そうですね。うん、それは思いますね(笑)。

栃尾

うん、うん。

井上

それがね、アイデアの回でも申し上げましたけれども。

栃尾

はい。

井上

全然関係ない2つの点が。

栃尾

あぁ、確かに。

井上

混ざると割と面白いことになっていくよってことにつながっていくのかもしれませんね。

栃尾

そうですね。そこをなんか今まで別々だったものをどう繋げるかっていうのはたぶん井上さんならではの繋げ方があって、たぶん別の人だったら別の繋げ方をするだろうしみたいなことを今思いました。

井上

そうそう、確かにそうかもしれません。

栃尾

ね。

井上

別々のものがあって、その繋げ方に作家性がにじみ出るというか。

栃尾

なるほどね。

井上

その人らしさが出てくるんじゃないですかね。

栃尾

なるほどね、そっか、そっか。

井上

だから別の人が同じ2点を選んでも、また違うものができていくのかもしれませんよね。

栃尾

うん、うん。物理好きみたいなところはどういうところに表れてるっていうのありますか?

井上

物理好きですか。

栃尾

でも、ゾートロープとかはそうなのかな。

井上

そうなんですよ(笑)。よくよく考えてみると割り算ばっかりしてますから、僕、ゾートロープで。

栃尾

えっ?

井上

「360度割るいくつはいくつで」とか。

栃尾

あぁー。

井上

かなり緻密に作らないとちゃんと動くオブジェにならないので。

栃尾

はい。

井上

すごく計算機は毎日カチャカチャやってますねぇ(笑)。

栃尾

電卓叩いてやるんですか。

井上

電卓叩いてます。

栃尾

へぇ。その1ミリとか0点何mmズレるともう見れないってこと?

井上

そうです。アニメーションが雑になっていくので。

栃尾

はい、はい。

井上

きっちり何等分して配置していったりとかっていうことはやるために、数学とか算数は毎日やってますね(笑)。

栃尾

(笑)すごいですね。

井上

いえいえ。

栃尾

なるほどなぁ。そう、頭の使い方みたいなことって、モノをつくるときに、私も文章書くときも同じですけど、ここは左脳だな、ここは右脳だなみたいなのが結構あるんですけど。

井上

あぁ……。

栃尾

そういうのはありますか?

井上

左脳と右脳ですか?

栃尾

うん、例えばですけどね。

井上

あぁ……。

栃尾

今例えば、引き算と割り算とかは左脳っぽいなとか。

井上

うん、うん。

栃尾

なんだろうなぁ。動きを考えるのは右脳っぽいとかいうイメージですけど。

井上

なるほど。左脳、右脳っていう風に意識したことはないですけども、今考えてみると確かに両方必要だなとは思いますね。

栃尾

うん、うん。

井上

その正確に割っていく、コマを割っていくところと。

栃尾

そうですよね。

井上

ここはちょっと情緒が欲しいなっていう、動きに情緒を付けるときもありますから。

栃尾

はい。

井上

そういうときはまた違うんでしょうね。

栃尾

そんなに意識しないで、自分の中で流れるようにやってるんですか?

井上

うーん、そうですね。あんまりそういうことを考えたことなかったですね(笑)。

栃尾

(笑)。私はもうなんか圧倒的に左脳的な作業だとパフォーマンスが落ちるんですよ。

井上

あ、そうなんですか。

栃尾

没頭度合いが減っちゃうんですよね。

井上

へぇ。

栃尾

うん、で、ちょっとそれこそ情緒的な表現とか、ストーリーの流れとかを考えてるほうが、楽しく没頭できるんですよね。

井上

そうなんですね。

栃尾

はい。

井上

わりとそこは混ざっちゃってる感じがしますねぇ。

栃尾

へぇ。

井上

なんでだろう(笑)。

栃尾

どっちも好きって言うか。

井上

そうですねぇ。もうなんかあんまり境界線がないような僕は感じがしています。

栃尾

へぇ。ちなみに、いろいろ工程があると思うんですけど。

井上

はい、はい。

栃尾

本当はやりたくないんだけど、やらざるを得ないみたいなのもありますか? 苦手な工程っていうか。

井上

うーん、それはありますねぇ。

栃尾

例えば。

井上

一番しんどいのですね、「このアイデア本当にちゃんと形になるかな」って、そのアイデアを練って練ってどうにかして形にしようとしているときに、もう、しんどくなります。

栃尾

形にする前?

井上

形にする直前ですね。

栃尾

直前……、設計図を描くような段階ですか?

井上

そうです、そうです。

栃尾

あぁ。

井上

「この形でいいのかな? この方向性でいいのかな?」っていう分かれ道がまだいっぱいあるときに、なかなか自信が持てなくて。

栃尾

はい、はい。

井上

苦しくなりますね(笑)。

栃尾

へぇ。

井上

それが定まってから、あとはもうこの設計図、ラフ通りに作るだけってなったらもう気が楽ですけれども。

栃尾

なるほど、なるほど。設計図通りに作るのは比較的楽しいみたいな。

井上

楽しいし、そこでは何回か前に申しあげました、音楽とか、周りで雑談とか、Netflix観ながらとかできるかもしれませんけれども。

栃尾

あぁ、なるほど、なるほど。

井上

そのラフ段階がすごくツラいです。

栃尾

へぇ。漫画家さんと一緒かもしれないですね。

井上

あ、そうなんですかね。

栃尾

なるほど、なるほど。はい、じゃあ、今日もちょっとそろそろお時間となりましたので、この辺で終わりにしたいと思います。以上、栃尾江美と。

井上

パンタグラフ井上でした。

<書き起こし、編集:折田大器

http://emitochio.net/services/
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