
今回お伺いしたのは、「ひとつの仕事を今後につなげるための方法」といっていかもしれません。造形作家のパンタグラフ・井上さんが、仕事を「自分の作品」としてとらえ、どんなふうに次のお仕事につなげていったのかをお伺いしました。クリエイターはこういう考え方が必要ですね。自分の実績を、できるだけ多くの人に見てもらい、「こういうことができる人にお願いしたい」と思っている人とつながれるとよいと思います。
栃尾クリエイティブの。
井上反対語。
栃尾こんにちは、ストーリーエディターの栃尾江美です。
井上造形作家のパンタグラフ井上です。
栃尾このポッドキャストは私、栃尾江美が好きな人やお話したい人をお呼びして、クリエイティブに関することや哲学的なことを好き勝手に話す番組です。引き続き、パンタグラフ井上さんお願いします。
井上はい、よろしくお願いします。
栃尾ずっと私の大好物の話がずっと続いてる感じで(笑)。
井上いや、嬉しいですね。
栃尾たまらないんですけど(笑)。
井上はい。
栃尾ちょうどですね、こう収録の間の雑談で話していただいたことが、「いや、これ配信でも言いましょう」ってなったので、それについてね、もう一回あらためてお伺いしたいんですけど。
井上はい。
栃尾なんか『日経パソコン』のお仕事は、ギャラ的にはそんなに合わなかった……、合わないって言っていいのかな。まあ、高くはなかったけれども、自分の作品になるから気合いを入れていたというのをお伺いして。
井上そうですね、雑誌なので『日経パソコン』さんに限らず……、あっ、『日経パソコン』さん、頑張ってくださったほうなんですけどね(笑)。
栃尾あ、そうなんですね。
井上すごく頑張ってくださったほうなんですけれども(笑)。
栃尾はい。
井上それでもやっぱり表紙のために、立体造形を作って写真撮影をしてっていうのは、やっぱりすごく労力がかかってくる、と。
栃尾うん。
井上広告ぐらいやっぱりかかってくると、ちょっと広告と雑誌の予算感がまったく違うので。
栃尾ちなみに何倍ぐらい違うとかあるんですか?
井上うーん、5倍、10倍は違うかなぁって感じがしますね。
栃尾うーん、なるほど。
井上あのぉ、その『日経パソコン』の表紙は、なんとかこう頑張って、高級な、手をかけた表紙にならないかなと考えてやったんですけど。
栃尾はい。
井上なかなか難しかったんですけども。
栃尾はい。
井上これもう僕らの作品にしよう、と。
栃尾はい。
井上ということで、著作権は僕たち持ちで。
栃尾うん。
井上作って写真を納品した後でも、これは僕たちの著作権、つまり、作品を表紙のためにレンタルしているような形でも良いですか? っていう形でお願いしてみて。
栃尾はい。
井上「いいですよ、それでやりましょう」っていうことで、了解くださって、まあ、少ない予算の中でしたけれども、僕ら作品がすごく溜まって、毎回、予算的には厳しかったんですけれども、後々カレンダーにしたりとかですね。
栃尾ホントですね。
井上本にまとめて、作品集にして出版したりってことに繋がっていったので、すごくプラスになったシリーズになりましたね。
栃尾なるほどねぇ。
井上すごくそれって大事で、自分の作品を作ることによって、『日経パソコン』だけの作品で終わったわけではなくて、算数とか数学の教科書の表紙にも「これ作ってくれ」っていう風にお願いがあったりとか。
井上そうです、そうです。あれもやっぱり『日経パソコン』みたいな形でやってくれっていう風に言われたんですね。
栃尾あ、同じ契約形態でというか。
井上あ、作風としてです。
栃尾作風として、はい、はい。
井上作風としてこういう感じで。
栃尾ああいう感じがいいと。
井上そうです、そうです。
栃尾うん、うん。
井上とか、今、ずっと10年ぐらい、これ言っていいのかな? 言っていいでしょうね。
栃尾(笑)。
井上(笑)Google社のエープリルフールを手掛けてるんです、うちで。
栃尾やばいじゃないですか、それ。
井上そうなんですよ。それもやっぱり「不思議な道具『日経パソコン』シリーズ」から「こういう形で、こういうモノを作れないか」ってことで言われていったんですね。
栃尾うーん。
井上だから最初に僕たちが「この予算の中でやってくれないか」って言われたときに、「じゃあ、その予算の範囲内で作ろう」っていう風にやっちゃってたらダメだったと思うんですよね。
栃尾拡がりがなかったってことですよね。
井上そうです、そうです。自分たちの実力を抑えて、抑えて予算がある範囲に抑えてやっちゃってたら、良い作品にはならなかっただろうなってことで、やっぱりなるべく工夫をしてですね、作品づくりの場を確保したっていう経験はすごく良かったかなと思いますね。
栃尾うん、うん。私もやっぱりそういう考え方は結構していて。
井上はい。
栃尾確かにレベル感が違うんですけど、「ちょっと予算は合わないけれども、自分の代表作になる」みたいなインタビューとか、著名な方とか、そういうのはなるべく受けるようにしてて、自分の実績とか宣伝になると思ったり、まあ、もちろんスキルにもなりますけど、そういう感じの受け方は結構ありますね。
井上あ、そうですか。
栃尾うん、うん。でも、よく聞くのは、「予算内でもそれ以上の仕事をすべきだ」みたいな感じのことも言われるなって思ってるんですけど。
井上うん、うん。
栃尾でも、井上さんの場合はそれで著作権を渡さないというのを結構ちゃんと交渉したのか、考えたのか、そういうところがやっぱり私は大事だなって思ってますね。
井上あ、そうですか。本当に、そうですね。大きな分かれ道だったかと思いますね。
栃尾はい、はい。
井上でまあ、似たような話ですけれども、最近は安い仕事ほど一生懸命やっているなという感じ(笑)。
栃尾そんなの言っていいんですか(笑)。
井上そうですね(笑)。予算のない仕事ほど、楽しく取り組めてますね(笑)。
栃尾それは自分の裁量があるとか、自由度があるってことですか?
井上まあ、そういうことですね。
栃尾うん、うん。
井上もうドサッと予算をいただいてやる仕事って、僕、だいたい人に振っちゃうんですよ、役割分担して。
栃尾パンタグラフの別の方にってことですか?
井上そうです、あの内外問わずですね。
栃尾内外問わず、はい。
井上振って、「これはもう周りにやってもらう仕事だ」っていう風に割り切ってやらせるんですけど、安い仕事がきたら「もうこれは僕がやる」っていうことで。
栃尾(笑)。
井上(笑)あのぉ、一度受けたらもう「これがいくらだから」っていう、「いくら」っていうのはもう完全に取っ払ってですね、一生懸命やるっていうことを心掛けてやってますね。
栃尾へぇ、その心は何なんですか。
井上うーんと、まあ、自由度がすごくあるので、なかなかこう相手もきっと口出ししづらいですよね、きっと。
栃尾お金が安いから?(笑)
井上(笑)安いんで「もう自由にやってください」って。なかなか口出ししづらいと思うんですよ。
栃尾なるほど。
井上だから「ちょっと自由にやらせていただきますよ」って最初にお断りをしてですね、取り組ませていただいて。
栃尾はい。
井上結果、口出しされるより良いものができることもあるので、そういう風にしてやってますね。
栃尾確かにね。
井上はい。
栃尾広告のお仕事って予算がある分、ガチガチに決まってて、何度も直したりとかありますもんね。
井上そうですね。だから、やっぱりクライアントからこう色々口出しされて、その通りに修正しなきゃいけないとか、クライアントもやっぱり気まぐれなので(笑)。
栃尾(笑)。
井上コロコロ変わったりするわけですよね。
栃尾はい、はい。
井上それにもう付き合う、付き合い代ですよね、きっとね。
栃尾なるほどね。
井上そういう風に考えてやってることが多いですかね。
栃尾(笑)。
井上あんまりここまで言っていいのかわからないですけど。
栃尾確かに。本当にクリエイティブにお金とか労力とかをかけたいですよね。
井上そうですね。
栃尾うん、うん。私も確かに、おっしゃっていただいた近いものはあって。
井上はい。
栃尾「自分の好きなように書けるんだったら、その値段でもいいです」みたいなのもやっぱりありますね。
井上あぁ、そうですか。
栃尾「メディアの書き方がしっかり決まってるから、ガチガチにそれでお願いします」っていうのは、ちょっと余計に変な疲れ方をするっていうか。
井上そうですよね。
栃尾はい、はい。
井上それができるようになったのは、やっぱり多少時間が経ってからですね。最初にそういうことはできなかったですし、最初はやっぱり言われた通りにやるしかなかったですしね。
栃尾はい、はい。
井上それがまあ、「こういう風にしたらいいですよ」とか、「もう全部こちらにお任せしてください。そっちの方がいいですよ」っていう風に言えるようになったのは、やっぱり実績を積んで、自信も付いてっていう、それが前提で言えるようになってきたかなっていう感じはありますよね。
栃尾うーん。そのパンタグラフさんにお仕事が来るのって、どういう感じでくるんですか? 私正直ですね、そんなに露出が多くないなって思うんですよね。
井上そうですね、はい。あんまり名前も出ないことも多いですしね。
栃尾はい。
井上作品……、作品っていいますか、その仕事に対して。
栃尾うん。
井上うーんと、そうですねぇ。やっぱり「ホームページ見て」っていう方が一番多いです。
栃尾まあ、それはそうか、最終的な問い合わせの経路で。でも、じゃあ、テレビとか、それこそなんかの動画とかを見て、誰が作ってるのかなって自分で頑張って一生懸命調べて、問い合わせしてくるってことなんですかね?
井上そうだと思いますね。あとは、まあ、例えばテレビCM業界だったら、横のつながりがあるので、「この昔のCM誰が作ったの?」ってことでまた新しい担当者が連絡してくれるっていうことが多いですかね。
栃尾うん、うん。
井上まあ、いわゆる口コミ的な形で。
栃尾はい。
井上業界内の口コミっていう形ですね。
栃尾へぇ、すごいですよねぇ。
井上いえいえ。
栃尾今ってどれぐらいの人数でやられてるんですか? 内外入れてっておっしゃってましたけど。
井上(笑)お恥ずかしい話ですけども……
栃尾はい。
井上今はもう1人ですね。
栃尾えっ、どういうことですか?(笑)
井上(笑)。
栃尾振る人がいないとか(笑)。
井上1人か、2人。そうなんです、チームを組める人たちはね、助けてくれる人たちはいっぱいいるので。
栃尾あ、そうなんですね。
井上はい、カメラマンだったりとか、編集してくれる人たちはいっぱいいるので、外にいるので。
栃尾うん。
井上なにか大きなプロジェクトが入ると、そういう人たちとチームを組むんですけれども、今は本当に1人でアトリエでポツンとやっています。
栃尾へぇー。
井上ただし、数年前までは4、5人ぐらいは必ずいて、やってましたね。事務所形式でやってました。ただし、皆さん優秀なのでとっても。
栃尾うん。
井上やっぱり僕の周りだと作家志向の人たちが集まるんですよね。
栃尾うん、うん。
井上どうしても「ずっとここにいるわけじゃない」って前提で集まっている人たちなので。
栃尾はい。
井上皆、独立していったりとか。
栃尾(笑)。
井上偉い絵本作家さんになっていったりとか。
栃尾ヨシタケシンスケさんですね。
井上あぁ、そうですね。
栃尾(笑)。
井上とかですね、もう1人で自分でブランド立ち上げてやりたいとか、自分で作家活動やりたいとかっていう風になっていくことがほとんどですね。
栃尾へぇ。
井上だから、ずーっと一緒にやってっていう人は……、まあ、いないんです。でも、それで良いと思ってるんです、全然。
栃尾うん、うん。そういう方も、井上さんと同じように造形を作ってるってことですか?
井上それも様々で、造形やってる人もいましたし、造形は苦手だけど合成をしたりとか、編集をしたりとか、音楽を作ったりするのはすごく得意だっていう人がいたりとか。
栃尾ふーん、そうなんだ。
井上イラストは得意だ、ヨシタケさんなんかはそうですね、イラスト得意だっていう人がいたりとか。
栃尾ふーん。
井上やっぱり才能といいますか、得意分野が被らないほうがいいので。
栃尾うん、うん。
井上色んな才能を持った人たちが集まってるようなチームでしたね。
栃尾ふーん。ちょっとお仕事の話に戻るんですけども。
井上はい。
栃尾広告と、そうじゃないちょっと安い仕事のがっておっしゃってましたけど、広告以外にどんな仕事があるんですか?
井上そうですね、広告以外だと、展覧会に作品を出してくださいっていう仕事ですね。
栃尾自由度高そう。
井上うーん……、そうでもなかったりするんですけど(笑)。
栃尾そうなんだ。
井上うーん、まあ、さまざまです。
栃尾さまざま。はい、はい。
井上「展覧会のテーマがこうあって、グループ展のテーマがこうあるので、こういうのを作ってください」とか。
栃尾そういうのも、「いくらで作ってください」みたいな感じなんですか?
井上そうですね、一応、予算枠があって。
栃尾はい、はい。
井上その中でなのか、まあ、はみ出しちゃうのかわからないですけれども、やるんですね。
栃尾(笑)はい、はい。
井上あと、最近多いのはやっぱり「ワークショップをやってくれ」っていうのはすごく多いですね。
栃尾うん、うん。
井上ちょっとこの(新型コロナの)騒ぎになってから、だいぶ減りましたけれども、学校教育以外の場でなんか学びが欲しいっていうニーズがすごくあるみたいで。
栃尾うん。
井上今後も何かしらの形で、どんどんあるだろうなという風には思ってます。
栃尾やっぱり子ども向けですか?
井上子ども向けですけども、大人が参加しても楽しいっていう、なるべくそういう風なですね、親子で楽しめるようなワークショップを色々考えてずっとやってましたね。まあ、今も継続中ですけども。
栃尾絶対楽しいと思う。
井上(笑)。
栃尾なんか私そういうなんだろうなぁ、モノをつくりたいみたいな結構欲求があって。
井上そうですか。
栃尾はい。
井上へぇ。
栃尾それで、井上さんとか本当にリアルに作るから、私が10代とかだったら弟子入りしたいって思ったんじゃないかって思ってます。
井上(笑)あぁ、ホントですか。
栃尾そう、そう。
井上今はだいぶモノづくりの状況も変わってきているので。
栃尾あぁ、はい、はい。
井上僕なんかは古典的なやり方だと思うんですね、今にしてみたら。
栃尾なるほど。
井上やっぱり、まあ、3Dプリンターだったりとか、プログラミングを絡めたりとか、っていうのが、まあ、これからそういう時代になってくるんだろう、っていうかもうなってると思うんですけども。
栃尾はい。
井上「そういうところもしっかりやっていかないとな」とは思ってるんですけども。
栃尾危機感みたいなのもあるんですか?
井上うんと、そうですね、例えば僕は、このアトリエをしながらですね、仕事をしながら、子どもの造形教室とかをずっとやりたいと思ってるんですよね。
栃尾うん、いいと思います。
井上いいですよね(笑)。ただ、今の子たちにやっぱりフィットさせるんだったら、そういうメディアアート的な部分といいますか。
栃尾はい。
井上プログラムだったりとか、パソコンだったりとか、そういったものを絡めて、それとマッシュアップした学びの場っていうのが、やっぱりこれからは必要なんだろうなぁっていう、はい、焦り……、焦りってほどでもないですけど、必要性はあるだろうなっていう風には感じていますね。ただ単に、机の上で粘土で何か造形を作る、絵を描くとか、プラスなんかをしないといけないだろうなっていう、うーん、危機感、危機感ですかねぇ、ありますねぇ。
栃尾なるほど、なるほど。確かにね。でも、ちょっと3Dプリンターもそうですけど、こう技術力みたいなのをちょっとすっ飛ばすみたいなところはありますよね。ジャンプできるっていうか。
井上そう、そう、そうなんですよ。
栃尾でも、井上さんフェイスブックに書かれたのを見ましたけど、「手でやったほうが速いし、きれい」とか言ってて(笑)。
井上(笑)。それは僕の場合はそうですよね。
栃尾そう、そう。でも、子どもだったらそうじゃないですもんね。
井上そうなんですよ。だから、それは多分僕だけのことだと思うので。
栃尾(笑)。そうなんだ。
井上そこは僕が下りて行ってですね、「皆だったらこうするだろうな」っていう想像を働かせてやらないといけないですよね。
栃尾へぇ、面白いですね。
井上だから僕ができるとしたら、モノをつくって、プログラムとかはこれから勉強しなきゃいけないですけども。
栃尾なるほど。
井上それこそ、コマ撮りアニメーションにして撮ってみようとか。
栃尾楽しい。
井上動画にしようとか、ゾートロープにしてみようとかっていうところでは、すぐに僕でもできるかなっていうところで、何かしらワークショップっていうか造形教室に繋がっていかないかなという風には考えてます。
栃尾はい、楽しみです。えっと、はい、じゃあ、今日もお時間になりましたので、こんなところで、また引き続き次回ですね続きをお伺いしたいなって思います。以上、栃尾江美と。
井上パンタグラフ井上でした。
<書き起こし、編集:折田大器>
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