【読むPodcast】#184 プランナーの資質とは!?(ゲスト:アングー代表中川さん)


アングー代表の中川さんをゲストに迎えた最終回! ゲーム作りには欠かせない「プランナー」という職業は「育てられるものではない」と中川さんは言います。プログラマよりもずっと、資質が大事だというプランナーとはどんな仕事なのでしょうか? じっくりお伺いしました。

栃尾

クリエイティブの。

中川

反対語。

栃尾

(笑)。こんにちは、ストーリーエディターの栃尾江美です。

中川

こんにちは、アングーの中川です。

栃尾

このポッドキャストは、私、栃尾江美が、好きな人やお話したい人をゲストにお迎えして、クリエイティブに関することや哲学的なことを好き勝手に話す番組です。今回も中川さんにおいでいただいております。よろしくお願いします。

中川

はい、よろしくお願いいたします。

栃尾

なんで面白かったかって言うと、中川さん台詞があるのに水飲もうとしているから(笑)。

中川

(笑)。

栃尾

しかも今まで4回、5回収録していますけど、2回ぐらい最初の「反対語」を言えずに録りなおしているっていう(笑)。

中川

結構な打率ですね(笑)。

栃尾

そう、結構な打率です(笑)。

中川

4割バッター(笑)。

栃尾

(笑)。天然だって自分でおっしゃってましたけど、天然なんですか?

中川

いや、僕は違うと思ってるんですけど。

栃尾

違うと思ってる?

中川

人に言われて。

栃尾

あ、言われるんですか(笑)。

中川

(笑)。

栃尾

面白い。そういうのをバラしてしまったところでですね、『クリエイティブの反対語』という番組名だからという訳でもないのですが、クリエイティブに関すること、中川さんがたぶん「クリエイティブってこういうことだ」みたいなことを思っているんだろうなという風に私は思っていて、あとですね、前にインタビューしたときに、プランナー? ゲームの設計とか、世界観みたいなものを作る人ですかね?

中川

企画を作る。

栃尾

企画を作る人、「プランナーは資質だ」っておっしゃっていて、つまり、「訓練して磨かれるものじゃない」みたいなことをおしゃっていて、その話を聞きたいなと思ってますが。

中川

これ結構、業界的には劇薬な…

栃尾

劇薬なんですか?

中川

話かなって個人的には思っていてるんですけど。

栃尾

はい。

中川

そうですね、前にお話する機会があったときに、「プランナーは育つものではない」みたいな話をさせていただいて、そのことですよね?

栃尾

はい、そうです。

中川

その「育つものではない」というのはどういうことかというと、僕がゲーム制作の現場でずっと長年経験してきて、経験に基づく感想なんですけど、「企画って何?」って話だと思うんですけど、企画で求められるものっていくつかあるんですね。

栃尾

はい。

中川

アイデアを考えて、考えるですね、頭の中でアイデアを生み出す、イメージするみたいな。

栃尾

はい。

中川

それが出発点だと思うんですよね。モノづくり、当然ですけど、「こういうものを作る」っていうアイデアがないと作れないので、それを生み出すっていう。で、もう1個、現場でよく言われていたのが、それがアーティストであれば、自分が頭で思いついてそれを手で動かして作って行けばいいので必要ないんですけど、チームでモノづくりをするゲーム制作となると、やっぱりコミュニケーション、「人に自分の頭の中にあるものを正確にどうやって伝えるのか」みたいなコミュニケーションを求められます。それって、単純に、「人付き合いがいいよ」とか、「あの人は話しやすいよ」だけじゃなくて、話しづらい企画も、プランナーもいるわけですよ。

栃尾

へぇ。

中川

「あの人めっちゃ話しかけづらい」「何考えてるのかわかんない」けどすごいプランナーもいるわけです。だから、人好きがするとか、話しやすいが必ずしもコミュニケーションではなくて、その自分の頭の中にあるものをどうやって正確に他のデザイナーさんであったり、他のプログラマーさんであったりに伝えることができるかみたいな。

栃尾

それは単純に言語化っていうこととも違うんですか?

中川

いや、基本的には言語化だと思いますね。でも、言語化は必ずしもしなくてもいいんですよね。言語化を介さずに、でも結果的に形になればいいわけです。

栃尾

はい。

中川

例えばこう、サラサラっと書いた落書きで、もし伝わればそれでもいいですし、言語化でも良いですし。

栃尾

ふーん。

中川

で、その2つが結構大きいっていう風に、プランナーとして求められるっていう風に僕は聞いて育ったんですけど。

栃尾

はい。

中川

その中で、コミュニケーションとか自分の頭で思ってるものを伝えることができたとしても、アイデアというか、自分の頭の中に何かを生み出すことができない人は、そもそもプランナーとして「原点がない」みたいになっちゃうじゃないですか?

栃尾

そうですよね。

中川

そこが教育とか修業で「できる、できない」で言うと、「できない」っていうのが経験上、見てきたっていう感じですね。

栃尾

できない人を見てきた?

中川

そうですね。すごく頑張るし、努力もするんですけど、アイデアを生み出すのが下手な人が、修業によってすごい優れたアイデアを生み出すようになった例を僕があまり見たことがないっていう。

栃尾

へぇ。

中川

25年間ぐらい(見てきて)。

栃尾

アイデアって言ったときに、例えば、「キャラクターを考えます」という風になった場合に、たぶん今おっしゃってるのって、突飛なキャラクターをパッと考え出すというよりは、「あるキャラクターについて緻密に考えていくことなのかしら」って思ったのですけど、そういうことでもないんですか?

中川

そうですね、一言で言えないんですけど、例えば、何かを考えるって色んなレイヤー(階層)があって、僕、キャラクターを考えることは決して得意ではないですけど、イケてるかイケてないかわからないですけど、いくつかキャラクターを生み出せって言われたらたぶん生み出せます。それは僕が今言っているプランナーの「アイデアを生み出す」とはちょっと違くて。

栃尾

あ、違う。

中川

やっぱり、アイデアを形にして面白いゲームを作って世の中の多くの人に楽しんでもらうとなったときには、そのアイデアって優れてないといけないんですよね。

栃尾

なるほど。

中川

「優れたゲームデザインなどのアイデアを生み出して」というところは、誰でもできるわけではないというか、例えば、『スーパーマリオブラザーズ』と同じようなゲームで、キャラクターはおじさんではなくて、かわいい女の子ですと。で、帽子はこんな帽子を被ってますと。で、ファイアーフラワーでしたっけ? なんか取ったらファイアーボール出るのが、ファイアーでなくて水が出ますとか。別に「こういう企画です」っていうことはできるじゃないですか?

栃尾

はい。

中川

でも、それが必ずしも生み出したと言えるかというと、優れたアイデアではないというところもあると思うんですよね。

栃尾

ふーん。

中川

本当に面白いゲームを作る、映画でもそうだと思うんですよ。例えば、小説でもそうだと思うんですよ。優れた小説を生み出すって一言で言いますけど、例えば、面白くもないストーリーを作ることは誰だってできるわけじゃないですか?

栃尾

はい。

中川

でも、本当に人の心を動かすような小説を、ストーリーを作るっていうのは、やっぱりある種の才能がないとなかなか生み出せないと思うんですけど。

栃尾

へぇ。

中川

ゲームもたぶん同じような作家性というか、人が気付かないところに気付けるかとか。

栃尾

へぇ。

中川

そういうアイデアを生み出すことが出来る人っていうのは、やっぱり結構限られていて、相当少ないんですよ、そういう人って。で、そういう人が育った例を見たことがないんですよ。

栃尾

それは例えば中川さんが見て、「この人は優れたアイデアを持っているな」というのはどういうところで見分けるんですか?

中川

結構、一発で見分けられるわけではなくて、その人がそれこそ前回までの会話で「本質的なことを考えているかどうか」っていうことに近いんですけど、例えば、「自分がこういう行動をこのゲームでやれるとすごく面白いと思うんです」という意見を聞くとするじゃないですか。

栃尾

はい。

中川

その意見をそもそも良いと思えるかどうかももちろん大事なんですけど、それを考えるに至った、その人の思考とかを聞いたりすると、その人が本質的にゲームの企画というかアイデアを考えているんだというのがわかってきたりします。

栃尾

じゃあ、なんでそう思ったのっていうのを聞いていくってことですか?

中川

そういうのもありますし、実際モノづくりをする上でゲームの概要は分ったとしても、作っていく過程では細かい企画を作っていかなくてはいけないわけじゃないですか。「じゃあ、ジャンプするときには、どんなジャンプするの?」とか、そういうところも、アイデアをどんどん積み上げていくわけですけど、その積み上がっていくアイデアの質っていうのはやっぱりあるわけですよね。

栃尾

はい。

中川

そういうので、「あぁ、この人は本質的にアイデアを自分の頭から自分で考えて生み出す人なんだ」っていうのが、やっぱりある程度見分けがついてくるんですよね。

栃尾

へぇ。

中川

時間はかかりますけどね、見分けるのに。ちょっと、30分会話したからって分かるわけではないですし、1回の面接ぐらいで見抜けるものでもないと思ってるんですけど。

栃尾

へぇ。じゃあ、積み上げていくときとかも元々その人の中にあるものを引っ張り出しているような感じなんですかね?

中川

そうですね。やっぱり自分で考えてないものは出せないので、その人が今まで経験してきたこととか、自分が今考えてることとか、今まさに喋りながら考えていることも込みで、アイデアというものを出して行くんですけど、そのときの、着目点とか視点とか、本質的に頭の中で考えているかどうかみたいなところが結構差になってくるんですよね。

栃尾

へぇ。

中川

で、それが出来る人っていうのは、僕が知る限りは、結構修業でそれができるようになっていくというよりも、元々本質的にそういうことを考える習慣というか、癖がついていて、という人が、よりそのゲーム制作の現場で、経験を積むことによって精度が上がって行ったりとか、引き出しが増えていったりすることはあるんですけど。

栃尾

なるほどね。

中川

本質的なところは、わりと結構決まっちゃっているのかなっていうのを経験上(感じます)。

栃尾

えー。

中川

ただ、これ反対意見も多いです、業界でも。僕がこの話をしたときに、「いや、違う。育つ」っていう方もいらっしゃいますし。

栃尾

夢がないですもんね(笑)。

中川

夢がなくなっちゃうんですよね(笑)。

栃尾

もう最初から決まっているって言われたら。

中川

そうですね。

栃尾

なるほどね。でも、その考える習慣があるかないかというのは、なんとなくわかるというか、生まれつきではないけれど。

中川

思考の深さというものがあると思うんですよね。

栃尾

はい。

中川

例えば「今日は暑いな。夏だからから」以上みたいな思考も。それでも思考は思考じゃないですか。

栃尾

はい。

中川

ただ、もっと深い思考というか、本質に近づいたような思考って、人に求められてできるわけではないんですよ。「夏は暑い、なぜなら、夏だから」っていう思考で生きている人に、深い思考をしろって言ってもできないんですよね。放っておいても深い思考をできる人にしか生み出せないものってあるんですよね。

栃尾

その深い思考をしているけど、アイデアを生み出せないみたいな人もいるんじゃないですか?

中川

もちろん、います。センスも必要なので、深い思考ができるからといって、優れたゲームプランナーではないみたいな。

栃尾

なるほどね、やっぱり両方あるっていうか。

中川

両方兼ね備えてないといけない。

栃尾

発想するみたいな力とそれをさらに深掘りしていくみたいなことが必要なんですね。

中川

例えば、めちゃめちゃ味音痴で、すごく深く食材のことも研究し尽くしたけど、クソ不味い料理を作る。

栃尾

(笑)。その舌がおかしいとかの人がね。

中川

そういうのもいますし。

栃尾

いくら研究してもね、確かに。なるほど、そこがセンスっていうことですね。舌の感度みたいなものが。

中川

えぇ。

栃尾

なるほどなぁ。

中川

それがなんかこう、全然ダメだった人が、すごく仕事をする過程で修業して身に付いていってという例があまりいないです。でも、僕元々プログラマーなんですけど、プログラマーが全然プログラムしょぼかったのが、仕事して修業していく中で、いいプログラム書けるようになった例はある程度あるんですよ。

栃尾

ふーん。

中川

スタープログラマーにはなれないんですけどね。スタープログラマーとの一線は何かあるんですよ。

栃尾

うん、うん。

中川

常人にはわからない何かがあるんですけど。

栃尾

突き抜けるものがね。はい、プランナーに関しては?

中川

プランナーに関しては、そこが残酷ですけど、すごい明確に一線引かれているっていう。

栃尾

面白い。私この間ですね、『進撃の巨人』の編集者だった人の話を聞く機会があったんですけど、その方はやっぱり新人漫画家をどう見るかっていうと、やっぱり同じようなことを言っていて、「なんでそう思ったの?」とか、「これどうなってるの?」とか、そういうことをひたすら、ひたすら聞いていくんですって。

中川

はい。

栃尾

だから、企画会議って言っているのに、もう質問の嵐だと(笑)。

中川

(笑)。

栃尾

それが傍から見ると、すごい詰めているように見えるらしいんですけど、でも、そこでちゃんと答えられる人が、その『進撃の巨人』の作家さんだったんですって。だから、そもそもアイデアとか世界観とか緻密さとか、そういうのがちゃんとできているっていうのが、やっぱりヒットする漫画家の条件だみたいに言ってました。

中川

それにちょっと近いかもしれないですね。

栃尾

近い。すごいですね。ゲームのプランナーさんっていうのは、作家みたいなことですね。

中川

作家性に近いと思いますね、そこは。

栃尾

アーティストとはちょっと違うんですか? 自分で作らないから?

中川

アーティストは、一人で作れるっていう意味で今言いましたね。

栃尾

なるほどね、そっか。

中川

プランナーに求められるコミュニケーションっていうのが、陶芸家が人と喋るのがすごい苦手だけどすごい陶芸家はいますけど、ゲームプランナーは何かしらの手段で自分の頭の中を再現してもらわないといけないので。

栃尾

なるほど、そっか。そのアイデアのところまでは一緒だけど、それを「人に伝える」っていうところの1個ハードルがあるけれども、アーティストは自分で作っちゃえばいいからみたいなことですね。

中川

そうですね、プランナーは自分で作れないので。人に作ってもらわないといけないので。

栃尾

なるほどね、プランナーの話で終わりましたけど、すごい面白かったです。はい、じゃあ、告知をしようかな、何にしようかな。えっと、そうですね、この間も言いましたけど、『クリエイティブの反対語』でツイッターもやっていますので、もしよろしければ検索をしてフォローしてみてください。以上、栃尾江美と。

中川

中川裕史でした。

<書き起こし、編集:折田大器