
マメヒコの井川啓央さん、2度目のゲスト! 私が最近気になっている「教養」についてお伺いしています。すぐに必要ではないけれど、長い目で見て必要な気もするし、だからといって目くじら立てて身に着けるものでもない気がするし、興味がないと頭に入ってこないし……。と、教養との付き合い方はなんだか難しいのです。それを、井川さんはパシッと答えてくれました。
栃尾クリエイティブの。
井川反対語。
栃尾こんにちは、ストーリーエディターの栃尾江美です。
井川こんにちは、マメヒコの井川です。
栃尾このポッドキャストは私、栃尾江美がお話したい人をお呼びして、クリエイティブなことや哲学的なことを好き勝手に話す番組です。井川さん。
井川はい。
栃尾ありがとうございます。また来ていただいて。
井川いや、いや、反響があったって。
栃尾そう、そう、すごいね、井川さんの会はね、面白いって人が多くて。
井川ホントぉ。
栃尾井川さん好きです。この収録してくれてるアユミちゃんもそうだけど。
井川好き?
栃尾そう、そう。
井川ホントぉ、もっと好き感が出るといいね。
栃尾(笑)、私もよく言われるんだよね。「井川さん好き感」が足りない(笑)。
井川「好きですよ」みたいなことを言われたって、好き感出てないからあんまり嬉しくないじゃん。
栃尾(笑)そうかな。
井川なんか言わせてるみたいでね。
栃尾そうかな(笑)。
井川うん。
栃尾私は個人的に、放送してどうかということじゃなくて、井川さんに聞いた愛の話がずっと私の心に残っていて、今でもそれを支えにして生きてますね。
井川ホントぉ。
栃尾言ったこと忘れちゃったと思うけど(笑)。
井川忘れちゃって(笑)、何言ったかわかんないけど、まあでもイイコト言ったんでしょ、きっと。
栃尾イイコト言った(笑)井川さんのことだからね(笑)。
井川うん、たぶんオレのことだからイイコト言ったんだと思う。
栃尾そう、そう。でね、今日は、私が常日頃から思ってるというか、「何なんだろうな」と思ってる、位置づけを迷ってるものについてちょっとお伺いしたいんです。
井川はい。
栃尾「教養」なんですけど。
井川教養。
栃尾よくなんかリベラルアーツとか言うんですかね。
井川うん、うん、教養ね。
栃尾まあ、それは日本語にして教養とイコールじゃないっていうことも書いてあったりしますけど。
井川うん。
栃尾そういう「すぐには役に立たないけど、学校で習ったりする」みたいなこと。私は、「自分が教養ないな」って思っていて、学校で習ったことも忘れちゃってるんですよ。
井川うん。
栃尾だけど、「(教養が)ある人は素敵だな」と思うけど、「そればっかり振りかざしてる人は素敵じゃないな」って思ったり、井川さんにとってどういうものなのかなって。
井川逆に、栃尾さんが「教養があればいいな」と思うことってあるの?
栃尾なんかね、「このときにあったらいいな」って感じじゃ多分ないんですけど、色んなことを、たとえば、歴史を知っていたら、今の流れを歴史を振り返って考えられるじゃないですか。
井川うん。
栃尾あとは、芸術をたくさん知ってたら、目の前にある色んな食器一つにしても、そういうモノと繋ぎ合わせて考えられる。
井川うん。
栃尾そういう深みが出る、映画とかもそうですけど、「そういう世界が私は見えてないんだろうな」と思って、「見えたらいいな」って感じですかね。
井川あの……、僕は教養って必要だと思いますよ。
栃尾必要? ないとヤバイ?
井川ヤバイかどうかは、わかんないけど、あったほうがいいと思う。
栃尾あったほうがいい?
井川それはなぜかって言うと、ザックリ考えるっていうことと、チマチマ考えるっていうことが、人は必要だと思うわけよ。
栃尾うん。
井川ね?
栃尾はい。
井川で、チマチマ考えることっていうのは誰だってできるわけよ。
栃尾へぇ、はい。
井川そうじゃない? 生きているっていうことは、チマチマ考えるっていうことじゃない?
栃尾視野が狭いっていうこと?
井川視野が狭いっていうか、たとえば、今日のお昼ご飯を、まあじゃあ、『サイゼリヤ』にしましたと、「ピザにしよっかな、パスタにしよっかな、いや、やっぱりサラダかな」って考えることはチマチマだよね。
栃尾なるほど、はい。
井川で、そういうことで生きてるわけでしょ。仕事だったら、「納期厳しいけど、ギャラ高いから請けるかな」とか。
栃尾(笑)。
井川「ギャラ安いけど、まあ、一応請けとくだけ、請けとくか」っていうのはチマチマだよね。
栃尾なるほどね。
井川で、このチマチマしてるっていうのは母性的なことなわけよ。
栃尾うん、うん。
井川つまり、子どもを育てることもそうだし、日々の生活っていうのはチマチマしてないと生きてけないよね、やっぱり。
栃尾はい。
井川「母乳にしようかなぁ……」
栃尾(笑)。
井川「いや、粉ミルクにしよっか」とかって言うこともそうだし。
栃尾(笑)なるほどね、はい。
井川日々の積み重ねが大事だから、そういう意味でいうと教養なんていらないと言えばいらないわけよ。
栃尾そういう生き方をするんだったらね。
井川だって、教養があったって、江戸時代の後、明治時代になったことなんて、知らなくたって、粉ミルクか母乳かには関係ないでしょ?
栃尾困らない。
井川困らない。
栃尾うん。
井川なんだけど、ザックリ考えるっていうことがないと、人は頭の中がリフレッシュされないと思うわけよ。
栃尾リフレッシュの問題?
井川そう。
栃尾へぇー、そうなんだ。
井川リフレッシュの問題なわけよ。
栃尾へぇ、そうなの?(笑)。
井川教養とはコレすなわちリフレッシュのためにある。
栃尾すごい、それ誰も言ってないんじゃないですか? 世界で。
井川言ってないのよオレしか言ってないと思う。
栃尾(笑)。
井川なんでかっていうとさ、あのぉ、やっぱり小さなことの積み重ねでは、色んなことが複雑になり過ぎちゃうわけよね。
栃尾あっ、ホントそう。
井川そうでしょ? だって、小さいことばっかりに捉われちゃうわけだから、要は、リトル・ディファレンスがすごく気になっちゃう。
栃尾それがなんか大きいことのように思っちゃう。
井川思っちゃう。
栃尾うん、うん。
井川小さいことが大きく感じちゃう。
栃尾わかる。
井川だけど、大きく見ればさ、そのぐらいの差は大したことないよ。
栃尾「半日ぐらいミルク飲まなくても、死なないよね」と。
井川うん、うん。だから、極端に言えば、「黒人だろうが白人だろうが人は人じゃん」って思うことって、ザックリ考えてるよね?
栃尾うん。
井川同じ……たとえば、仏教でも、浄土真宗と日蓮宗は仏教は仏教じゃん、とか。
栃尾うん。
井川キリスト教と仏教だって、宗教は宗教じゃんって考えれば、色んなことがスムーズに考えられるじゃん。
栃尾シンプルにってことですか?
井川うん。これが小さいことの差異ばかり気にしてると、人生はデコボコだらけだよね。
栃尾そうですね、パズルみたいに組み合わせができなくなっちゃうっていうか。
井川そう、「そんなの合うわけない」とか、「こんな私みたいなへんちくりんなピースは合う人なんかいるわけない」みたいに思っちゃうじゃん。
栃尾うん。
井川だけど、単純化すれば、「細かいところは合わないかもしれないけど、まあ、合うでしょ」。合うと思うって希望が持てるじゃん。
栃尾うん。
井川だから、ザックリ考えるっていうことは、希望が持てるってことでもあるわけよね。
栃尾うん。
井川つまり、リフレッシュするっていうことは、「あぁ、チマチマしてて嫌だな。でも、広い目で見れば、うん、まあまあ行けるかも」って希望が持てるじゃん。
栃尾それって、教養がないとそういう考え方できないんですか?
井川できない。
栃尾なんで?
井川なぜかっていうと、モノゴトには、たとえば、AとBがあって、AとBに対して「何が違っているのか、何は似ているのか」っていうのを考える能力って必要なわけよ。たとえば、「徳川家康と織田信長は何が違うのか」っていうことを考える視点って色んな点であるわけよ。天下を統一しようとした人と、成し得た人の違いもあるし。
栃尾へぇ。
井川たとえば、そういうことをしかけた人と、それを成就した人っていうことがあるわけじゃない。
栃尾はい。
井川でも、これはさ、たとえば、自分がベンチャー企業を立ち上げたときに、ベンチャー企業を立ち上げるっていうことは、織田信長的な側面がないと厳しい。ツベコベ言わずにオレの言うことを聞けっていう。
栃尾なるほど。
井川かといって、それを大きい会社にするっていうことになると、徳川家康的な側面が必要だと。
栃尾うん。
井川でも、これを徳川家康も織田信長もまったく知らなければ、最初にイケイケでやってて会社が立ち上がって、うまくいったかもしれないけど、ある時点でうまくいかなくなったのも「何でだろう」っていう視点が浮かばないよね。
栃尾うん、うん。
井川やっぱりどこかでシフトチェンジしなくちゃいけないんだろうっていうことは、歴史から学ぶじゃん。
栃尾はい、はあ、そうなんだ。
井川そういう最初はイケイケで行っても、途中からはやっぱり穏やかにしていかなくちゃいけないっていうことは、薄々は感じるよね。
栃尾なるほどねぇ。
井川でも、そういうことがないと、「信頼してたアイツに裏切られて、この世は悪ばっかりだ」みたいな、小さいことだとそうなっちゃうよね。
栃尾なるほどねぇ。
井川「なんで私は運が悪いんだろう」みたいなことになっちゃう。
栃尾うん。
井川でも、その似ていること、自分の置かれている境遇が、徳川家康と織田信長の人生と重ねることもできるし、かといって、じゃあ、全部重ねてね、「俺は織田信長の生まれ変わりだ」みたいに思っても、そうじゃないから。時代が違うし。
栃尾うん。
井川そうすると、似ているけど、やっぱり違うという点はあるよね。これもまた教養だよね。
栃尾ふぅーん、難しいなぁ。
井川似てるけど、違う。
栃尾うん。
井川違うけど、似ているっていう点に着目するっていうことは、常に頭をリフレッシュできるじゃん。
栃尾リフレッシュできるかぁ。
井川そうでしょ、だって。じゃあ、たとえばさ、全然関係ない話をすると。
栃尾はい。
井川お茶ってあるじゃん?
栃尾お茶ありますねぇ(笑)。
井川中華料理食べるでしょ?
栃尾うん。
井川中華料理食べるときにお茶って飲むじゃん?
栃尾はい。
井川アレ、なんでお茶飲むかっていうと、常にリフレッシュさせたいからだよね、口を。
栃尾あぁ、料理が変わる度に飲むっていう感じなんですか?
井川うん、だから、たとえば、酢豚を食べて、口の中がどんどん酢豚になるじゃん。
栃尾うん(笑)。
井川酢豚になったときに、お茶飲むと、
栃尾(笑)。
井川酢豚を食べてなかったことにできるから、気持ち。
栃尾うん、わかります、わかります。
井川それで酢豚食べたらさ、「アレ、美味しいね」って思えるじゃん?
栃尾(笑)うん。
井川そういうことが人間には必要なわけよ。
栃尾へぇ。
井川そうでしょ?
栃尾必要、それは必要、そこまでは、うん。
井川っていうときに、「お前酢豚食べたいって言ったんだから、そんな途中で飽きたなんて言わないで、ずっと酢豚食べとけよ」。
栃尾(笑)。
井川っていう風になりがちなのよ。
栃尾あ、日常を暮していると?
井川日常だけを考えると。
栃尾うん。
井川「そんな贅沢言ってんなよ。お茶なんてそんな贅沢なもの、水で我慢しとけ」ってなるじゃない?
栃尾うん。
井川ところが、やっぱり人間が生きていく上で、幸せだと感じるのって、身近なものでありながら新鮮に感じられることじゃない?
栃尾うん、そうですね。
井川そうでしょ?
栃尾それが一番いいっちゅうか。
井川すごくあの人好きだなって思ったけど、途中で飽きてくると。
栃尾一緒にいてね。
井川一緒にいたら。「なんでこんな人と一緒にいるんだろう」と思う。
栃尾うん。
井川でも、なんかお茶的なことがあってね、その人と。
栃尾うん。
井川ハッと、「あ、すごくこの人好きだけど嫌だなって思ってたけど、やっぱり好きだわ」って思い直した日は幸せじゃない?
栃尾うん、わかる。えっ、それが教養の意味ってこと?
井川それが教養ってことよ。
栃尾へぇ。たとえば、どういうのがお茶的な?
井川つまり、もう少し難しく言うと。
栃尾これより難しくなっちゃう(笑)。
井川視点を変えることが大事だってことだよ。
栃尾あぁ、はい。
井川モノゴトは変わらないんだから、その二人の関係性も、自分と酢豚との関係性も変わんないじゃん。
栃尾うん。
井川だけど、視点を変えれば、同じものでも全然違って見えるわけでしょ。
栃尾そうですね。
井川この色んな視点、角度を持てるってことが教養だって言ってるわけ。
栃尾その角度を、色んな視点を持たせてくれるのが教養?
井川そう。
栃尾なるほどねぇ。
井川だから、「お金なんて要らないですよね」っていうのは教養ないじゃない。
栃尾うん。
井川お金も必要だよ。
栃尾うん、うん。
井川でも、お金だけ稼いでいればいいっていうのは教養じゃないじゃない。
栃尾うん。
井川だから、お金が要らないとか、お金が要るって考えるのは教養ないよね?
栃尾うん。
井川お金はそこそこ要る。
栃尾うん。
井川でも、「がめつくあってはイケない、っていう塩梅はどうやって決めるんですか」って言ったときに、教養がモノをいうわけじゃない。
栃尾え、そしたら、教養は必ずしも知識じゃないんですか?
井川そうだよ。
栃尾ふぅーん。
井川教養とは知識ではない。
栃尾考え方みたいなのでもいいってこと?
井川教養っていうものに、すこし栃尾が嫌悪感があるとしたら。
栃尾コンプレックスがあるかも、嫌悪感というかね。
井川うん、それがあるとしたら、それはそういうものを持っているのをひけらかして、自分の支配下に置きたいような、つまり、アクセサリー的に教養を持ってる、もしくは、「それを教養だと、それこそ”強要”する」
栃尾(笑)。
井川みたいな人だったら、「そんなの持ってても意味ないんじゃない」って思うけど。
栃尾うん。
井川僕はね、僕の定義では、そういう人は教養はないから。
栃尾逆にね。
井川逆に。
栃尾知識はあるけど。
井川知識はあるけれど。だから、あながち、まあ、学歴が高いとか、そこそこの地位に着いているって言ったって、教養があるかどうかという点ではわからないよ。
栃尾そうなんだ。
井川だって、トランプ大統領が教養あるとは思わないからね。
栃尾うん、うん、なるほどね。
井川だって、東大出てたって、試験に受かるための知識っていう点では手に入れているし、そういうことについては勤勉であるけれども。
栃尾うん。
井川教養っていう点では、あるかどうかってわからないじゃん。
栃尾ふーん、じゃあ、「大学で教養を習います」っていうことがあったりするから、私は知識って思っちゃってるけど、そうじゃない。
井川そうではない。
栃尾大学で教えているのは、そのほんの一部、知識部分だけだってみたいなこと?
井川そう。だから、知識として、学問としてね、たとえば、理科系だったら、「サイン、コサイン、タンジェントだけ知ってればいいじゃん」みたいになっていても。
栃尾うん。
井川その枕草子っていうのがいて、枕草子と、源氏物語を書いた紫式部っていうのがいて、この違いはいったい何なのかっていうことがわかって、「古典は古典だろ」みたいなことを思うかもしれないし、「いや、枕草子っていうのは、現代で言うところのインスタみたいなもんだね」って思うとか、そういう視点を持ち得ることが大事、まあ、大事っていうより、「なんかのときに目くじら立てずに済む」ってことよ。
栃尾へぇ。もちろん、役に立つこともあるけれど、どっちかっていうとリフレッシュということ?
井川そう。だから、教養課程だと、大学の教養課程で、単位の取りやすいものを取るっていうのは、もう全然教養からおよそかけ離れてるよ。
栃尾はい。
井川「何言ってんの?」っていう。
栃尾うん。
井川だから、教養っていうのは、自分の好きなこととはむしろ違うことをやったほうがいいわけよ。
栃尾違う視点はね、もちろん。
井川違う視点を持つっていう。
栃尾確かに。
井川「えっ、それ関係ないだろう」っていうことを知ることで、「あっ、自分のやりたいこととなんか似てるな」とか。
栃尾なるほどねぇ。
井川すごく専門的なことを学ぼうと思っていたけど、そこでは達し得なかったことだけど、この視点を持つことで自分のやろうとしてることがむしろ少し高みに登ったって思えること、それが教養じゃん。
栃尾なるほどねぇ、視野が広がった。
井川うん、ということ。
栃尾ということで、今日はありがとうございました(笑)。以上、栃尾江美と。
井川井川でした。
<書き起こし、編集:折田大器>