【読むPodcast】#183 チームでクリエイティブを発揮する難しさ(ゲスト:アングー代表中川さん)


今回も、ゲーム制作会社アングーの代表取締役である中川さんをゲストにお招きしています。今回はチームでクリエイティブを発揮する難しさについて、中川さんの想いを聞いてみました! 自分一人でも、これまで作ったものを壊したり直したりするのはなかなか大変よね。

栃尾

クリエイティブの。

中川

反対語。

栃尾

こんにちは。ストーリーエディターの栃尾江美です。

中川

こんにちは。アングーの中川と申します。

栃尾

このポッドキャストは、私、栃尾江美が、好きな人やお話したい人をゲストにお迎えして、クリエイティブに関することや哲学的なことを好き勝手に話す番組です。今回も引き続き、中川さんにおいでいただいています。よろしくお願いします。

中川

はい、よろしくお願いいたします。

栃尾

そう、休憩時間に色々と話をしていたら、やっぱり哲学の本とかを若い頃たくさん読まれていたということで、そういうことを考えるのが好きなんですよね?

中川

そうですね、ええ。

栃尾

私が中川さんともっと話したいって思ったというのは、やっぱりインタビュー中にそういうのを強く感じたんだなってすごい思いました。

中川

お恥ずかしいです。

栃尾

休憩時間にすごい盛り上がりましたけど(笑)。

中川

(笑)。

栃尾

それで、今回はチームで今働いていらっしゃると。

中川

はい。

栃尾

で、ゲームを作っているってことで、その「チームの難しさ」みたいなものを教えていただこうかなと。

中川

僕が最初にゲームを作り出したときの、カプコンさんでのゲーム作りの原体験というか、人数が少なかったんですよね、まず。

栃尾

何人くらいですか?

中川

そうですね、チーム全員でもせいぜい15人ぐらいの感じ。

栃尾

それで少ないんですね。

中川

最初それぐらいでやってたんですけど。

栃尾

はい。

中川

僕プログラマーだったので、プログラマーのところ中心でゲーム作りが行なわれていて、デザイナーさんとかは違うところで、基本、リソースを作っているんですけど。

栃尾

場所が違うっていうことですか?

中川

場所が違ってて。

栃尾

はい。

中川

で、プログラマーのところに集まってくるんですよね、プランナーの方とか。

栃尾

えぇ。

中川

絶えずそのプログラマー5名くらいのところで、ゲーム作りの中心地があるみたいな感じだったので、そのプログラマーと、そこに来るプランナー2、3名とデザイナー2、3名の小規模な感じで仲が良くなって、ランチも一緒に行って、プライベートもすごい話して、学生の頃の延長みたいな雰囲気があったんですね、先輩もいましたけど。

栃尾

はい。

中川

なので、そういう関係性の中でゲーム作りをすると、何て言うんでしょう、踏み込んだことが言える。「お前が考えているコレ、面白くないわ」とか、「全然イケてないから、こっちのほうがいいよ」みたいなことをズカズカと言えるっていう関係性。

栃尾

ズカズカ言っても崩れないみたいな安心感が。

中川

そうです。もう完全に安心感があるので、踏み込んだことを言う、と。

栃尾

はい。

中川

結構クリエイティブってそれぞれ考えている正解とか違いますし、好みもあるので、摩擦って絶対に起こってくるんですけど、その摩擦を恐れないっていう環境が。

栃尾

なるほど。

中川

人数が少ないからこその環境みたいなのがあったんですね。

栃尾

ふむふむ。

中川

それがどんどん時代が変わっていくとですね、人数が増えていくじゃないですか。

栃尾

えっ、時代とともに変わっていくんですか? 

中川

はい。

栃尾

へぇ。

中川

ゲームの規模が大きくなっていくんで。

栃尾

あぁ、そっかそっか。

中川

関わる人数っていうのが増えていくんですね。で、例えば、私がカプコンさんに勤めていた後半のほうで言うと、『プレイステーション4』のゲームとかを作るチームとなると、もう延べ人数も200名、300名みたいな。

栃尾

すごい。期間はどれぐらいなんですか?

中川

期間はもう2年、3年みたいな期間で。

栃尾

へぇ。

中川

その3年間ずーっと200人いるわけではないんですけど、延べ人数なんですけど。

栃尾

入れ替わり立ち替わり。

中川

でも、「随時100名以上」みたいになってくるとチームの中で知らない人もいたりとか、1回も口きいたことのない人がいる。

栃尾

確かに、まあ、たくさんいますよね。

中川

「たくさんいる」となってくるんですよね。その中でモノづくりをやっていくっていうのと、あと一人ひとりが担当している範囲っていうのが専門化するんで、昔だったらもっと範囲が幅広かったのが、すごい専門的に小さく小分けになっていくっていうのもあるので。

栃尾

はい。

中川

その環境で何が起こるかというと、「よそよそしい、踏み込んだことが言えない」感じになるんですよね。

栃尾

はい。

中川

あと、プロジェクトが大きいということは、ひと月にかかる開発費が莫大なものになるじゃないですか。

栃尾

はい。

中川

なので、1か月遅延するだけで、「何億の損失」みたいになるので、すごいプロジェクトマネジメントを細かくやらないと、当然会社としては厳しいので、やるとなると無駄な議論とかが許されない空気になったりとか。

栃尾

効率化みたいな。

中川

そうです。例えば、開発の現場で、昔だったら5時間ぐらい「ココ、こうしたほうがいいんじゃないか?」みたいな雑談みたいな会話が許されていたのが、そういう空気じゃなくなって、「何やってるの」みたいになったり、結構システムが変わっていくんですよね。

栃尾

ふーん。

中川

そうなっていくと、やっぱりチームで本当に面白いものを作るって簡単に言うんですけども、「構造的な問題」みたいなものが出てくるんですよね。

栃尾

なるほどね、そういう面白いものを追究する、例えば、効率よくするだけだったらもしかしたらいいのかもしれないですけど、面白いものを追究するっていう上での人数が増える難しさっていう感じですかね。

中川

そうですね。

栃尾

へぇ、やっぱりこう無駄を愛するっていう文脈ってあると思いますけど、その5時間の雑談みたいな会議っていうのは、無駄話もいっぱいあると思うんですけど、そういうところから光るアイデアが出てきたりするみたいなことが昔の開発だったら生まれていたっていうことですか?

中川

はい、そうです。

栃尾

あぁ、なるほど。

中川

そういうのが生まれづらくなるので、そういうところがやっぱりゲームの品質とか面白さ、面白いものにできるかどうかにも結構影響があって。

栃尾

へぇ。

中川

それが例えば、ハリウッドでの大規模な映画作りだとか、例えば、アメリカでの大規模なゲーム作りと日本での大規模なゲーム作りとか、結構やり方にもすごい差が出てきていたりします。

栃尾

へぇ。

中川

例えば、日本だと議論があまりされないみたいな現場なんですね。

栃尾

なるほど、そうかもしれません。

中川

日本人の特性もあって、議論が下手みたいなのだったりとか、あとは、争いを避けたがる傾向があったりだとか、そういうのもあるので、人数が多い中で一人ひとりのクリエイターの力を引き出しづらくなっているみたいな。

栃尾

はい。

中川

決まったことを粛々とやってもらうしかないみたいになってしまうので、単純に昔、例えば5人でゲームを作っていたときと、10倍の50人でゲームを作っている今とでは、開発費が10倍になったらいいのかと言ったらそうではなくて、方法論とかも色々と工夫していかないと、昔日本が世界中で輝いていたときのような高いクオリティをもったゲーム作りっていうのが難しくなっているっていうのが、今の日本のゲーム業界で起こっていることかなと思っています。

栃尾

へぇ、今、アングーさんでやられている開発っていうのは、もうちょっと小規模なんですよね?

中川

そうですね。今、大きな『プレイステーション4』で100名で作るみたいなゲームはうちの会社の規模ではできないので、もっと少人数の作りをしているので、そういうところから、この先会社の規模とか、チームの規模が大きくなったときに、今までの日本でのモノづくりでの問題点とかが、クリアできるような文化作りとかからやっていこうみたいな。

栃尾

へぇ、確かに。先ほど「日本とアメリカ」ですか?

中川

はい。

栃尾

で、ゲームの作り方が違うっておっしゃっていたのは、アメリカだともっとディスカッションをいっぱいしたりして作っているってことなんですか?

中川

結構アメリカでも、作っているものによったり、スタジオによっても違うらしいんですけど、例えば、有名なところで言ったら、『ピクサー』の映画作りって、結構大規模な人数で制作してますけど、ブレストというものをモノづくりですごい大事なものとして取り組んでいると。

栃尾

はい。

中川

ただ単にブレストするだけではなくって、本当にこの映画が観る人にとって感動を与えるようなものになっているのかっていうのを、制作途中の段階で、結構リーダークラスから、社長クラスまでも全部込みでブレストして、内容を再検討してみたいなことをやっていると。

栃尾

はい。

中川

例えば『アナと雪の女王』は、最後「姉妹愛」がテーマでしたけど、最初はそうじゃなくて、王子様と最後結ばれるみたいな終わり方だったのを、「今の時代それじゃどうなの?」みたいな議論があって、結構制作の進行した段階で、「これは姉妹愛のテーマにすべきだ」みたいになって、方向転換をしたみたいな。

栃尾

そうなんですか、へぇ。

中川

そう伺っていて、そういうことが行なわれる仕組みづくりみたいなのを『ピクサー』ではやっている。それも一つの取り組みだと思うんですよね。良いものを作るためにどういう仕組みを入れていくべきなのか。一回決まったことを作っている途中で、「これ面白くないよな」って現場は思いながらも止められないみたいなところが大半だと思うんですけど。

栃尾

はい。

中川

「そうならないためにはどうすべきなのか」みたいな。

栃尾

それでも、例えば、5人ぐらいの少人数でも途中まで作ったのをひっくり返すのは超難しくないですか?

中川

もちろん、そうなんですけど、ひっくり返すのはいつの世でも結構大変なことなんですけど。

栃尾

自分一人で作っていたら、まあ、まだ納得できるかもしれないですけど。

中川

というのは、事業的観点とか、ビジネス的観点で言っても、人数が少ないほうがひっくり返しやすいですよね?

栃尾

まあ、そうですかねぇ。

中川

開発費がそんなにかかっていないので。

栃尾

はい、判断がしやすい。

中川

そうですね。判断しやすいですよね。それが「月5億円かかってます」みたいな開発費を途中で変えたら、「じゃあ、何か月かかるんですか」「プラス15か月かかります」「えっ、何十億円プラスになるの?そんな判断できない」みたいになりがちで。

栃尾

もう論外だって感じですよね。

中川

そうです。

栃尾

でも、実際に作っている人が、今まで作ってきたけれど、汗水たらしてきたけれども、それでもひっくり返すべきだみたいに思えるかどうかって、やっぱりそれまで小さいプロジェクトでも、そういう経験をしたかどうかというのが、もしかしたら大きいかもしれないですね。

中川

そうですね。そういう判断ができるかどうかっていうところも、ある種のクリエイティブなんだと思うんですよ。

栃尾

はい。

中川

やっぱり人って、今まで自分がやってきたこと、例えば、特に監督がこうだって言ってみんなに作ってきてもらったものを「やっぱりなし」とか。

栃尾

あー、つらい(笑)。

中川

そういうのって、超厳しいじゃないですか。

栃尾

プライドとかがありますからね。

中川

もちろん、理想で言うと、途中で方向転換しないように最初の段階で、構想段階で頑張るっていうのは、絶対に必須なんですけどね。

栃尾

まあ、そうですよね。

中川

途中で変えていいっていう話ではないんですけど、それでもやっぱりモノづくりをしていく過程で「このほうが良い」となることは起こるので。

栃尾

やってみなきゃわからないところはありますよね。

中川

そうですね。

栃尾

それをね、中川さん自身はやったことありますか? そういう判断。

中川

えー、いやぁ、どうですかね。僕はどっちかと言うと、あんまりできなかったですね。自分ができたとは言えないですね。

栃尾

はい、でも、そういうチームにしていきたいっていうことですよね。

中川

そうですね、結局本当に良いものを作るというのは、すごく難しいと思っていて。よく言うじゃないですか、「面白いものを作る」ってみんな簡単に言いますけど、世の中が求めているものが本当に良いものですよねと、本当に良いものを作れば、最終的にはビジネスとしても成功するわけですよね。それでもし多くの人が喜んでくれて、それに対して対価をいただければ。そのループを作れているチームだったり、会社だったりってなかなかいないというか。

栃尾

そうですよね。期待を超え続けるって相当厳しいですよね。

中川

そうですね。で、現実的じゃないってなると、一般的なビジネス判断で作られていくので、期待を超えるものにはならないっていうループになりやすいですよね。

栃尾

はい

中川

で、例えば、壮大な話ですけど、『Apple』が『iPod』とか『iPhone』で世界を変えたとか、そういうのもたぶん人々の期待を超えるものができたので、今までになかった市場が生まれて、「『Apple』の製品ってすごい違うよね」ってなって、で、次の『Apple』の製品が待ち望まれてみたいな、良いループみたいな。そういう良いループを作るっていうか、目指すっていうのがたぶんどの業界でも一緒だと思うんですけど、目指すべきところなのかなって思いますね。

栃尾

へぇ、そっか、そうですね。チームの話からズレてきた気がしますけど。

中川

あぁ、そうですね。

栃尾

なるほどね、そういうのに気付くとか、潜在的なものを、『iPhone』とか典型的ですけど、そういうものを世に送り出すみたいなのって、やっぱり今までずっと話してきたことですけど、「本当にワクワクするか」とか、「本当に楽しいか」とか、「興奮できるか」みたいな自分の本質的なところ、そういうアンテナに訊くしかないのかなって思ったんですけどね。

中川

はい、そうですね。

栃尾

そうですよね。それ以外に、論理的にどうだっていうのは言えないから。

中川

そうですね、市場調査をしてそれが生まれるわけではないので。

栃尾

そう、そうですよね。っていうのをすごく強く感じました。はい、じゃあ、そろそろお時間なので、告知です。私、インタビューをして、そのインタビューを物語風に、小説風に書くっていうストーリーブックっていうのを作っていて、何件か今までやったんですけど、それをもしやりたいという方がいたら、ホームページを見ていただければと思います。EMITOCHIO.netというURLになります。以上、栃尾江美と。

中川

中川裕史でした。

<書き起こし、編集:折田大器