
「来年には仕事がなくなるんじゃないか」と思って自信がないというパンタグラフ・井上さん。フリーランスにありがちな不安ではありますが、「うそでしょー!?!?」と思わずにいられません。話を聞くと、そこではやはり「クライアントワーク」「作家的な仕事」の分類があるようです。番組の最後に、今回で井上さんは最後とお伝えしていますが、もう1回あります!!!
栃尾クリエイティブの。
井上反対語。
栃尾こんにちは、ストーリーエディターの栃尾江美です。
井上こんにちは、造形作家の井上です。
栃尾このポッドキャストは私、栃尾江美が好きな人やお話したい人をお呼びして、クリエイティブに関することや哲学的なことを好き勝手に話す番組です。今回もパンタグラフ井上さんに来ていただきました。よろしくお願いします。
井上はい、よろしくお願いします。
栃尾なんか話を聞いていたら、「自信がない」っていうキーワードが出てきて、「そんなはずはないだろう」って思ったんですけど(笑)。
井上(笑)。
栃尾それについてね、お伺いしたいなと思いまして。
井上そうですね。
栃尾はい。
井上「自信の塊」っていう言葉を聞いたことがありますけれども、僕は「自信のなさの塊」ですね、ホントに。
栃尾(笑)。
井上本当にそうだと思います。
栃尾えっ。
井上毎年、「仕事がなくなるんじゃないか」っていう、ずーっと不安ありますし、「この仕事こそコケるぞ」と思いながら作品を作ってますし。
栃尾なるほど、なるほど。
井上「もう弾切れだぞ」と思いながらアイデアを出してますし。
栃尾(笑)。
井上(笑)なんかそういうネガティブな、ネガティブな気持ちを抱えながらやってます。
栃尾え、でもさすがに、先の予定まである程度決まってるわけですよね?
井上うーん、いや、そんなことないですね、わりと僕の業種だと短いですかね。
栃尾あぁ、広告とかだと。
井上うーん、そんなに先の予定までは……、連載がちょこちょこあるだけで、うーん、やっぱり広告の世界ってサイクルが速いので。
栃尾うん、うん。
井上直前に入ってきて、「もう来月撮影なんだけど作ってくれる?」とかってことのほうが多いですかね。
栃尾なるほど、じゃあ、結構月ごとに売上は波があるみたいな感じですか?
井上はい、そうですね。もうガタガタです。
栃尾ガタガタで(笑)。
井上もうグラフがガタガタで、バラバラですね。
栃尾ふーん、でも、特に営業もそんなにせず、途切れることもなくずーっとやってるわけですよね?
井上そうですね、最初だけ営業したんですけども、それ以降は口コミだったりとか、ウェブを見て来てくださった方だとか。
栃尾うん。
井上学生時代の繋がりっていうのも結構あって。
栃尾いまだにですか?
井上そうです。
栃尾えー。
井上大学の繋がり、僕らの学校とか学部とかってちょっと特殊に思われるんですけど、すごく仲がいいんですね。
栃尾ふーん。
井上お互い一緒に仕事をしたりとか、呼んでくださったりとか、っていうことがあるので、いまだに同級生とか先輩とかと仕事はしていますね。
栃尾へぇ。
井上なかなかこう縦の繋がりが強い。そういうのにも救われています。
栃尾ふーん。えっと、そういう芸術関係の人っていうか、そういうのって自信がある人の方が多いのかなと思ったんですけど、そんなことないんですか?
井上全然ないと思いますよ、皆(笑)。
栃尾皆、ないんだ。
井上皆、ないと思いますね。ちょっとそれは極端ですけど。
栃尾はい、はい。
井上うーんと、ないからこそやっと続けていけてる人の方が多い……、多いというか、(そういう人)もいると思います。
栃尾正解がないし、やっぱりオリジナリティを追究しないといけないみたいなところって、道なき道をいくみたいなのありますよね。
井上そうですね。だからそこに不安を感じながら、綱渡りしてやっていってる人も多いんじゃないかなと僕は想像しますけどね。
栃尾うーん、うん、うん。
井上うん。
栃尾さっき、なんかコケるんじゃないかみたいな恐怖は。
井上はい。
栃尾どうやって克服するっていうか。
井上あぁ、克服ですか。
栃尾なんて言うんだろう。
井上そうですねぇ……、どうやって克服してるんだろう。
栃尾えっと、コケるみたいなのっていうのは、広告は、例えば動画、「これを出すことになりました」って言って、その動画があまり評判にならないとか、広まらないっていうことですよね?
井上うん、それもそうですし、「自分の思うようにできなかった」っていう。
栃尾あぁ、出来上がりが?
井上うん、出来上がりが。「評価はともかく自分がやりたいようにできなかった」とか、「良いアイデアが思いつかなかった」とか。
栃尾なるほど。
井上「そういうことになるんじゃないだろうか」と思いながらやってますね。
栃尾ふーん。それって……
井上克服……、どうやって克服……、あのぉ……、自信がないので。
栃尾(笑)うん。
井上(笑)アイデアが出すのが怖いので。
栃尾はい。
井上新しいアイデアが怖いんですね。
栃尾あぁ。
井上だから、昔成功したアイデアも入れつつ、新しいアイデアも取り入れつつっていう、こう両方に足をかけながらやっている感じはありますね。
栃尾なるほど、なるほど。
井上だから、あんまりにも新しいことをやりすぎると、まあ、ちょっとわからないので。
栃尾はい。
井上ちょっと戻りつつっていう風にして不安を取っ払いながらやっているイメージですかね。イメージの話ですけど。
栃尾はい、はい。それは案の中に古いもの、新しいものを入れるとかいうんじゃなくて、融合させるみたいなイメージですか?
井上あ、両方あります。
栃尾あぁ、はい、はい。
井上だから、A案、B案で、B案はもうやったことがあるもの、確実なヤツですよね。
栃尾うん、うん。
井上もうやったことあるけど、僕にとってはそんなに発見がないだろうっていうのが例えばB案で、A案はもう新しい、僕自身もやったことがないことを不安だけど「こういう案もありますよ」っていう形で、複数案の中でバランスを取っていくっていうやり方もやることはありますね。
栃尾うん、うん。今の話を聞くと、やっぱり不安を、それでも不安に向かおうと思うのは、好奇心とか、新しい発見をしたいとか、新しいことに取り組みたいみたいな気持ちなんですかね。
井上そうですね。単純に「仕事を完遂させなければならない」っていうことと、あとは、「新しい発見があるかもしれない」っていうちょっとした希望を持ちつつやることが多いですね。
栃尾はい、はい。
井上で、「あ、これ心配だったけどできた。これ、もう次もできるな」っていう風にちょっとずつ積み重なっていく良さはありますよね、確かに。
栃尾はい、はい。よく成功パターンに縛られるとかありますけど、やっぱりそれって不安だからこそですもんね、きっと。
井上そうだと思いますね。
栃尾ふーん。
井上でも、僕は怖がりな方だと思います、すごく。
栃尾へぇ、周りを見ててそう思いますか?
井上ものすごく思いますね。
栃尾ふーん。
井上怖がりで、怖がりで、それでよく失敗もしますけれども(笑)。
栃尾例えば。
井上例えば、だから、これが個人でやっている分には僕だけ心配してればいいんでしょうけど、グループワークになると、やっぱり「もうちょっと自信を持ってくださいよ」になるわけですよね(笑)。
栃尾(笑)
井上「井上さん、もうちょっと自信を持ってやりましょう」ってなってきちゃうので。
栃尾言われるんですか? スタッフの方に。
井上うーんと、「慎重だな」という風にはよく思われていると思います。
栃尾はい、はい。
井上はい。
栃尾でも、慎重さがないと、井上さんが手がけられた本っていうんですかね? 造形の本とか見ても、「そんなに丁寧にできないでしょ」ってすごい思います。見てても。
井上そうですねぇ。
栃尾もちろん、簡単なように書いてらっしゃるんでしょうけど。それより何倍もお仕事では丁寧にやってるんでしょうから。
井上確かに、慎重さが出てるかもしれません、作風に。
栃尾だって、めちゃくちゃ丁寧に見えますもん、こっちから見てると。
井上あれは不安の塊なですよ、ホントに。
栃尾(笑)。
井上そうなんですよ。
栃尾なるほどね。
井上だから、「それがあって、緊張感が保ててるのかな」っていう思いも少しあるので。
栃尾はい、はい。
井上「まあ、まあ、不安がってればいいか」っていう気もしてますね。
栃尾それって「丁寧に、きれいにやらないと気が済まない」っていうよりは、不安ってことなんですね?
井上そうですね。
栃尾へぇ。
井上「ここの小傷が写真に写っちゃったらどうしよう」と思いながら磨いています。
栃尾あぁ、なるほどね(笑)。写真に撮ってから修正するみたいなのは考えないんですか?
井上あ、えっと、まあ、もちろん、そういうこともありますけれども。
栃尾うん。
井上まあ、そういうのを嫌がるカメラマンがいたりとか。
栃尾へぇ。
井上修正不可能な部分があったりとか。
栃尾はい、はい。
井上どうしてもできないなっていうところもあったりとかしますし、「ちょっとこの写真になった後、展示を控えてる」っていう風になったら、結局ちゃんと作らなきゃいけないので、なるべく後修正は考えずにやるってことでやってますね。
栃尾なるほどね。今まで2つあると思ってて、作品に対する自信がないみたいなところと、あとは自分の評価みたいなことも自信がなかったりするんですか?
井上そうですねぇ……、評価については……。
栃尾あんまりない?
井上あんまりないですね。
栃尾ふーん。
井上あのぉ……、評価を気にしたことがそんなにないですかねぇ。
栃尾え、すごい。
井上うん、なんででしょうね、これは(笑)。
栃尾「仕事が来なくなるんじゃないか」みたいな不安っていうのは、「評価されないんじゃないか」っていう不安とは違うってことですか?
井上あぁ、ちょっと違うかもしれないですね、やっぱり。
栃尾ふーん、どういうことなんでしょう?
井上うんと、仕事が来ないっていうのは、まあ、えーとですね、「求められているものに対してちゃんと応えられるか」っていうところですよね。
栃尾なるほど。
井上僕がどうしても欲しい評価って、作家的な評価がどうしても欲しいので、求められたのに対して応えるっていうデザイン的なところじゃなくて、そのアートの部分ですよね。
栃尾うん、うん。
井上だから、その部分に関しては、どう思われようが、自分が納得できるものができれば良いと。例えば、世界で数人だけでもこれを「面白い」って言ってくれる人がいれば、もう全然意味のあるものだなと思いながら作ってるのがアートなんですけど、そっちの評価は、だから、あんまり気にしないかなぁーって、ちょっと話は複雑ですけど、そういう感じはありますよね。
栃尾ふーん。じゃあ、アート性のところ、作家性のところの自信と、クライアントワークにおけるニーズに応えるみたいな。
井上あぁ、そう、そう。
栃尾自信が、もちろん、別物としてあって。
井上そうですね、今話していて気づきましたけど、そこはちょっと分かれているのかもしれません。
栃尾どっちが自信がない?
井上だから、えっと、デザインの方です。クライアントワーク。
栃尾なるほど(笑)。
井上すごく自信がない(笑)。
栃尾(笑)。
井上「本当に言われたことの通りにできるのかどうか、求められていた通り、もしくはそれ以上のことができるのかどうか」っていうことと、これは個人的には問題なんですけど、「この人たちと上手くやって行けるかどうか」っていうところもすごく……。
栃尾(笑)。
井上人間関係的なところも、すごく僕的にはコンプレックスをたぶんちょっと持ってるんでしょうね。
栃尾うまくいかないときあるんですか?
井上あります、あります。だから、歯車がかみ合わないとかってこともありますから。
栃尾へぇ。
井上だから、僕はこうしてアトリエに籠もって作る仕事を選んだんでしょうね。
栃尾なるほど。
井上なかなかコミュニケーションしながらやっていくところに、上手くやっていく、これこそ自信がないというか(笑)。
栃尾へぇ、そうなんだ。お話していると全然ね、そんな感じしないですけど。
井上もう大変です(笑)。
栃尾モノづくりってなるとなかなかね、こだわりのぶつかり合いみたいなところもあるでしょうから。
井上そうですね。それもありますしね。
栃尾うん、うん。
井上それを駆け引きしたりとか。
栃尾はい、はい。
井上妥協点をお互い見つけていったりとかっていう作業ってすごく体力を消耗しますんで。
栃尾うん、うん。
井上なかなかいまだに苦手ですね。
栃尾あぁ、そうなんですね。
井上それもあって、苦手とか、不安とかっていうのがあるのかもしれません。
栃尾人間関係も含めみたいな。
井上そうです。クライアントワークって人間関係のね、あれじゃないですか。
栃尾確かに。
井上かたや、アートとかって、自分の好きなものを作るっていうのは、もう自分だけで完結できることなので、その自信とか評価とかあんまり関係なくできるっていうのが、僕の中の棲み分けですかね。
栃尾なるほどね。あんまり、話す前に自信のなさで想像してたこととは、ちょっと確かに方向性が違ったかなとは思いました。だから、自分の作家性みたいなところには、そんなにやっぱり自信がないという感じではないってことですもんね。
井上そうかもしれません。
栃尾うん、うん。それはいいですよね。それはやっぱ……、うん、それはそうだよなっていうのも変だけど。
井上(笑)うん、うん。
栃尾それだけやっぱり自分の作品を自信をもって作ってるっていうことですよね。
井上そうですね。そこは、段々、何年もかけて明確になってきているところかなぁっていう感じはしますね。
栃尾なるほど。ちなみに、どういうクライアントさんだととか、取引先だとやりやすいとかあるんですか?
井上そうですねぇ……、口出ししない人かなって(笑)。
栃尾(笑)。
井上でも、今、ちょっと言い方悪かったですけど、実際そうで。
栃尾うん、うん。
井上クライアントさんにもスタンスっていうのがあって。
栃尾はい。
井上「俺の言うとおりにやれ」「お金出してるんだから」って言う人と。
栃尾うん。
井上「一緒に良いモノ作りましょう」って言う人がいるんですね、やってて。
栃尾うん、うん。
井上で、「お互い成長しましょう」って。
栃尾うん。
井上同じ方向を向いて、ヨーイドンってしてくれる人。
栃尾はい。
井上はやっぱり良いモノ作りたいと思いますし、良いモノ作らせてくれる環境を一生懸命整えようとしてくれてますし。
栃尾はい。
井上わりと、そこの差は大きいですよね、本当に。
栃尾そうですよね。せっかくだって、井上さんに頼むのに、「私の言う通りにして」って言ったら、「意味ないもん」っていうか、「勿体なさすぎるでしょ」って思う。
井上まあ、そうですね。その方にも事情がおありなんでしょうけど。
栃尾そうですね。
井上「上に言われまして」ってこともあるので。
栃尾そうですね。あとはもちろんなんか、「私のやりたいことが技術的に井上さんにしかできない」みたいなことも、クライアントさん的にはあるかもしれないですよね。
井上あ、そうですね、それもあるかもしれません。
栃尾うん、うん、なるほどねぇ。はい、じゃあ、ちょっと最後、何て言うのかな抽象的な話になりましたけど。
井上はい。
栃尾井上さんの中の気持ちが聞けて、あと、素敵なクライアントさん像っていうのも聞けて。
井上(笑)。
栃尾「今後、そういう仕事をお待ちしています」っていう感じですかね。
井上そうですね、クライアントさんに聞かせられないですね(笑)。
栃尾(笑)そうですか?
井上(笑)。
栃尾はい、じゃあ、これで井上さんのゲストの回最後になりますけど、色々ありがとうございました。
井上こちらこそ、新鮮でした。ありがとうございます。
栃尾はい、なんか最後に一言とか言ったら困りますか?
井上あぁ、そうですね(笑)。なんだろう……、うん、でもね、このコロナが収まってまた私も活動して参りますので、是非どこかで皆さんとお会いしたいなと思っています。はい。
栃尾そうですね、新しいタイプの作品がまた出てくるんじゃないかという期待をして。
井上そうですね、はい。
栃尾じゃあ、本当にありがとうございました。
井上はい、どうもありがとうございました。
栃尾以上、栃尾江美と。
井上パンタグラフ井上でした。
<書き起こし、編集:折田大器>

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