先週でラストのつもりでしたが、もう1週収録お願いしました! これは、井上さんから若きクリエイターへのメッセージ! 自分の作品(作家性)を守るためにしていることを、ぎりぎりのラインで教えていただきましたよ!(クライアントから理不尽な修正を依頼されたとき……とかね!)
クリエイティブの。
反対語。
こんにちは、ストーリーエディターの栃尾江美です。
こんにちは、造形作家のパンタグラフ井上です。
このポッドキャストは私、栃尾江美が好きな人やお話したい人をお呼びして、クリエイティブに関することや哲学的なことを好き勝手に話す番組です。はい、えっと、クライアントワークについて。
うん。
なんか……(笑)。
(笑)。
なんか話したいことがあるというか、ちょっと……。
そうですね。
はい、お話があるってことで。
うん、今ね、とっちーさんと。
へんな、へんな振り方(笑)。
いえいえ、最後に、先ほどのね、前の回の最後に「いいクライアントとは」みたいな話になりましたけれども。
うん、うん、はい。
そのぉ、やっぱりいろんなプレッシャーがきたりとか。
はい。
不条理な要望がきたりとか。
うん、ありそう。
ありますよね。
ありますよね。
で、若い頃はわりとそれに対してまともに反応して。
はい。
「えー、そんなのできません」とか。
うん、うん。
「うー、わっかりました」とか言いながら(笑)。
(笑)「うー、わっかりました」ね。
やっていたりとか。
ある、ある(笑)。
まあ、ケンカになっちゃったりすることもありますよね。
えー。
ケンカっていうか、電話でちょっと言い合いになったりすることも。
それってあれですよね、いわゆる代理店さんですよね?
うーん、まあ、そうですけども、直もありました、私。
直もあります?
直もありました。「もう、このお仕事さようなら」って思いながら、心の中で言いながら、思いながら、電話でちょっとこう叱っちゃったりしたこともあったんですよねぇ。
へぇ。はい。
ただ、ちょっともう今そういうことは全然できないというか、やってなくて。
ふんふん。
色んな方法があって。
なるほど。
やっとその自分も歳をとってくると、色んな状況もわかってきて。
ふんふん。
「あ、クライアントさんのこの無理なオーダーはこの人が言いたくて言ったんじゃないんだ」ってこともありますよね、きっと。つまり……
代理店とかは特にそうですよね。
そう、そう、そう。だから、途中経過を見て、「どうですか?」って言われて、クライアントさんは「何か言わなきゃ。気の利いたことを何か言わなきゃ」と思って、「ここはちょっとこの色は」って言っちゃうんですよね、きっと(笑)。
あぁ、なるほどね。
そういうこともあって、あのぉ、私がこうね、言われたときは、「この色を変えてください」とか、「この造形ちょっとこうなりませんか?」って言われたときは、「あ、わかりました。検討します」ってだけでスルーしてしまうってことが結構多いです、最近は。
うん、うん。
で、忘れてあげるとか。
うん、うん。
良いモノを作るために忘れてあげるとか。
なるほどね。
はい。聞いたフリだけして、スルーしてあげるとかっていうことが結構ありますね。
それテクニックってことですね。
あぁ、そうです(笑)。
私CMのディレクターさんにインタビューしたことがあって。同じことを言ってました。
あ、ホントですか?
「クライアントさんがこうしてほしい」って言ってくるのを、代理店さんが言ってくると。
はい。
だけど、「うん、うん、わかった」みたいなことを言って、直さないでもう1回出すんですって。
はい、はい。そうなんですよ(笑)。
そう、そう(笑)。それで、「直したくなかったんだな」って相手が汲んでくれたりすると。
あぁ、なるほど、なるほど。
うん。で、どうしても直したかったらもう1回言うし。
うん、うん。
「こっちの意思が伝わったら、もう言ってこないし」みたいな。本当に忘れてるのかもしれないですけど。
うん、うん。
同じこと言ってましたね。
そうですよね。だから、えっとー、それはとてもいいと思います。
(笑)。
クライアントと作る側って、どうしてもお金払ってる側と受け取ってる側っていうのもあって、上下関係になりがちなんですけども。
そうですよねぇ。
やっぱり、良いモノを作るにはフラットじゃないといけないですよね。
フラットになれるもんですか?
うんと、なかなかやっぱり場合によりけりですけれども。
うん。
高圧的になられてしまうと困ることが多いですから。
はい。
僕は強制的にでも、無理にでもそこはなるべくフラットに近い形に持って行こうとする努力はしますね。つまり、例えば、「もっとこういう風になれないか」って言われたときに、今の方法を試してスルーしてダメだったら、「いや、でも、それでも絶対にこうやってくれ」っていうのが「もう上の絶対命令なんだ」って言われたら。
うん。
「わかりました。なんとかそこはしますけど、その代わりここの部分はこうしましょう」って必ずこっち側にも主導権が少しだけある、まあ、そこは対等になれるようなですね。
はい、はい。
こう条件をもちかけて、「わかりました。じゃあ、ここはこうだけど、そこはそちらの意見を呑みましょう」っていう風になるように、物々交換ができるようにして、こちらの立場が下になりすぎないような工夫は、なるべくしてますね。そうしないと、たぶん、どんどん来ちゃって。
はい。
結果的に向こうも困ると思うので。
良いモノができないっていうことですか。
そうですね、良いモノができないし、そうですね。「あ、言うこと聞いてくれるんだ、やってくれるんだ」ってことになると、あちらの方ですね、自分が作ってる風に錯覚してきちゃうんですよね。
うん、うん。
自分が言ったことが形になってくるんで、こちらがオペレーターになって。
なるほど、なるほど。
自分がディレクションしてるんだっていう風になってきちゃうので、そういうことを避けるために。それだとやっぱり良いモノできないので、「こっちが一応主導権を何割かは持ってやってますよ」っていうメッセージは送るようにしていますね。
へぇ、それはさっきの物々交換じゃないけど。
はい、そうです、そうです。
えっと、何て言うんですかね?
何て言うんでしょうか(笑)。
「あなたのオペレーターではないですよ」というサインであると。
そうです。「あ、この人言うこと聞かないよな」っていうのをどこかでわかってもらわないと。
(笑)はい。
悪意なく伝えなきゃいけないですよね、それをね。っていうところを気を付けてます、最近は。
えー、自分の仕事の場合でイメージ湧かないですね。なんか、交渉はしますけどね、その場で。
はい、はい。
たぶんそういうことじゃないんでしょうね。
うーん、そうですね。やりながらなので、なかなかちょっとこう難しい部分はありますけれども。
ふーん。
言われっぱなしにさせてあげないっていうか。
(笑)。
言わせっぱなしか。
言わせっぱなし。
こっちも言ってあげて。
うん。
なるべくフラットに。
なるほどね。
うん。
私が今までやってたのって、例えば「1を3に直してください」って言われた場合に、「いや、3じゃなくて2ぐらいにしましょうよ」ぐらいの交渉はするんですけど。
あぁ、はい。
そうじゃなくて、「いや、こっちのAをBにしてくれたら、3にしてあげるよ」みたいなことってことですよね?
(笑)あぁ、そうです、そうです。
えー、どうすればいいんだろう、それって(笑)。
うんと、技術的には、例えば、その「1を3にしてくれ」って言われて、「じゃあ、それなんとか呑みますけども、じゃあ、AをBにしましょう」と、AをBにするのは、僕にとってはどうでも良かったりするんですよ。
なるほどね。
どっちでも良かったり。その代わり、言われた通りにやらないぞビームを出すわけですよね、そこで(笑)。
うん、うん。
そうすると、次の要望がそんなに来なくなるっていう。
めっちゃテクニックですね。
(笑)そうですね、もう。
(笑)。
なんとかもう掻いくぐろうと思って、こういうことばっかり考えてる時期もありましたけれども。
へぇ。それは、その今の例で言った「AをBに」っていう、そもそものAはクライアントが指定したものじゃなくてもいいんですか?
もちろん、そうです。
自分がAってしたのに、やっぱりBにするでもいいってことですか?
いいと思いますね。
へぇ。
「1を3にするんだったら、ここに影響はあるかもしれないので、ここもこういう風にしましょうよ」とか。
なるほどね。
「辻褄が合わなくなってきちゃう、全体の辻褄が合わなくなっちゃうんで、ここで微調整しましょう」とか。
うん、うん。
なるべく、「はい、わかりました」ってならないように。
なるほど、なるほど。
しないと、あのぉ、いけないかなと思いますね。
はい、はい。
特に、若い人、仕事始めたばっかりとか、フリーランスになったばっかりとかの人って、自分もそうでしたけど、なかなか言い返せないとか。
そうですね。
提案しづらいとかっていうのもあると思うんですけども、ちょっとずつ練習する必要あるかなぁと思いますね。
うん、うん。辻褄が合わないっていうのはいいかもしれないですね。
うん、うん。あ、言い訳として(笑)。
そうです、そうです。私もこう文章を、まあ、文章って誰でも直せるんで、極端な話。
うーん。
結構直されちゃうんですけど、そうするとやっぱり、私の書いていたリズムがすごく崩れるみたいなことがあって。
はい。
それは、「内容は変えていただいていいけど、もう1回最終的なリズムは私が直させてください」みたいな感じにすると、もう無闇には直せなくなっちゃう、相手が。
うん、うん。
っていう経験はありました。
なるほど、なるほど。
それは全然意図的にではないですけど。
うん、うん、そうですよね。
はい。
全体のバランスを見れてない可能性がありますから、あちらさんが。そうですよね。
はい、はい。
そこを調整してあげるっていうことが必要かもしれませんね。
へぇ、なるほどねぇ。
っていう、はい、よくやってます(笑)。
ふーん。今はもうじゃあ、そしたらケンカしたりとかはないですか?
はい(笑)。
(笑)。
ケンカはなるべくしないようにしております(笑)。
ふーん。じゃあ、その結構、理不尽だなぁと思う直しとかも上手にかわせるように。
そうですね、でも、これはいまだにやっぱりありますかね。特に大きな会社になりますと、チェックが何重にもあると。
そうですね。
はい、部長チェック、常務チェック、課長チェック、社長チェック。
うん。
全員のチェックを通らないと通らないっていうのもありますから、なかなか難しいんですけれども。
はい。
もうちょっと、それは「もう楽しむしかないな」っていう。
あぁ、「こうきたか」みたいな(笑)。
そうです、そうです。もうそれしかないな。「あ、この人はこういうことを考えてこう思ったんだな」と。
はい、はい。
で、こちらは「ここを突っ込まれるだろうな」っていうトラップをいくつか仕掛けておいて。
わかりやすく。
はい(笑)。
(笑)。
守りたい部分は、もう手をかけられないように。
はい、はい(笑)。
「わかりやすいトラップに罠にかかるように」っていうことをすることもありますね。
(笑)すごい。
だから、そうなんです。プレゼンとか企画書とか、作る前のラフとかに完全なものを書かないというか。
はい、はい。
100%のものを書かないというか。
ツッコミどころを入れてあげるみたいな(笑)。
そうですね。「そういうことをやってたな」っていうのを今、話をしながら思い出しました(笑)。
へぇ。じゃあ、そこにこう部長とか、社長とか常務とか、わからないけど、その辺の人をひっかけておく(笑)。
ひっかけてですね。
(笑)悪い、悪いやつみたい(笑)。
(笑)そうですね、そうそう上手くいかないんですけども。
そうですよね。
うん、ただまあ、100%を見せておくよりは、ちょっと不完全なものを見せておいて。
はい。
「できあがったものが100%であれば、向こうも納得するでしょうから」ってことで。
うん、うん。
最近はこう力加減をするようになってきました(笑)。
なるほどね。本当に全然価値観の違う、まあ、同じ会社とはいえ色々価値観の違う人のすき間をすり抜けていくってすごい大変ですよね。
そうですねぇ。すごく難しいんですよ。
普通に考えて。
えぇ。なかなか難しいです。
よく案出しとか、デザイナーさんも何案とか出したりするじゃないですか。
はい、はい。
そういうのって、まあ、捨て案みたいなのがあるとか。
あります、あります。
なんかあと、極端な案を入れておいて、間の案を入れるとか。
はい、はい。
そういうのもやってますか?
すごくやってますね。
(笑)。
提案はもう何案も入れてますね。
あ、そうなんですか。
はい。で、「本当にこれがやりたいんだけどな」っていう案を2番目か、3番目にもってくるように。
順番で。
はい、はい。
はい、はい。
にしてやってますねぇ。
何番目中の2番目、3番目ですか? 何案あるんですか?
8個ぐらい。
すごっ!
の中の、1番最初にやりたいやつをもっていかないと。
うん、うん。
2番目か、3番目に潜らせておいて、で、最後の3つぐらいはもう、あの、まあ、クソみたいな案をですね(笑)。
(笑)飛び道具的な。
ダメ案を。そういう案を入れておいて、ちょっとツッコミどころも入れておいて。
うん、うん。
2番目、3番目を選びやすくしてあげるっていう。
「やっぱアレだったよね」みたいな。
そうですね(笑)。
へぇ。なるほどねぇ。
うん。
それ本当にクライアントさんが聞いてたら、そういう目で見ちゃいますよね。
まずいですね、これね(笑)。
(笑)。まずいかもしれない。でも、そういう……、なるほどねぇ。
うん。
そういうクライアントワークの正面から対決しないみたいなのは、やっぱり段々身に付いてくるっていうか、大事なんでしょうね。
そうですね。あのぉ、本音でしゃべらないとか。
(笑)どんどん悪い顔になってる。
悪い顔になってますね(笑)。
(笑)。
本当にそうですよね。そう、ちょっとズル賢くないと自分のクリエイティビティ守れないかなってときも、そういう風に感じることも実際にあるので。
はい、はい。
それを、掻いくぐるために、クライアントさんからこう言われたときに、スルーしてあげるとか、ちょっと馬鹿なフリをするとか。
ふーん。
「あ、わかりましたぁ」って言ったんだけど、なんか理解していない顔をするとかですね。
(笑)。
なんか色んなことを駆使しながら、クリエイティビティをなるべく守るっていう。
なるほどねぇ。
結果、クライアントさんにも良いモノが提供できるっていう信念の下。
確かに。
やることがあります。
そのほうが、良いモノができるってことですもんね。
そうですね。そうだと思います(笑)。
確かに。井上さんのほうがずっとやってるプロなわけですからね。
そうですかね。でも、クライアントさん、社長さんであるとか。
はい。
何も情報を得ないまま見た方の意見も確かに大事なので。
うん、的を射ている。
もちろん、無視はしないですけどね。そこも参考にしつつ、ということももちろんありますけれども。
そうですね、もっともだと思えば、ちゃんと受け入れてってことですね。
はい、っていうちょっとフォローを入れさせてください(笑)。
(笑)。
実際、そうです。
はい。なんかクライアントワークで悩んでいるクリエイターの方とかの参考になると本当にいいですよね。
そうですね。
世の中に良いモノが溢れていったら、いいなと思います。
そう思います。
ということで、じゃあ、そろそろお時間でしょうかね。
はい。
えっと、色々長くお話しいただきましたけど、どうもありがとうございました。
ありがとうございました。
以上、栃尾江美と。
パンタグラフ井上でした。
<書き起こし、編集:折田大器>