おもちゃクリエイターの高橋晋平さんに、「楽しい遊びを作るコツ」を伺いました! これは贅沢! 楽しいゲームは「強い人もときどき負ける」くらいの運の要素があったほうがいいんだとか。さらに、負けず嫌いの私も楽しめそうなゲームも教えていただきました。
クリエイティブの。
反対語。
こんにちは、ストーリーエディターの栃尾江美です。
こんにちは、おもちゃクリエイターの高橋晋平です。
この番組は私、栃尾江美が好きな人やお話したい人をお呼びして、クリエイティブに関することや哲学的なことを好き勝手に話す番組です。えっと前回と継続して晋平さんよろしくお願いします。
よろしくお願いします。
はい、で、私がぜひお伺いしたいのが、ゲームを作るプロの晋平さんに、楽しい遊びを作るコツみたいなのを教えていただきたいなと思っています。
はい、まあ、そうですね……、どっから話そうかな、なんですけど。
そうね(笑)、いきなりそんなこと聞かれても(笑)。
遊びね。ものすごい広いテーマなんですけど。
はい。
まあその、『遊びと人間』っていう有名な本がありまして、カイヨワっていう人の本なんですけど。
へぇ。
まあ、遊びの4要素っていうのが言われてて。
はい。
それが「競争」「運」「模倣」「眩暈(めまい)」っていう4つの要素なんです。
ふーん。
これ興味のある人は読んでいただければなんですけど。
競争、運、何でしたっけ?
模倣、眩暈なんですけど。
模倣、眩暈。
はい、1個ずつ話すと、競争はまあ、競争ですよね。ヨーイドンって言って、かけっこだったりとか、ゲームも対戦するし、そうやって競い合って勝ち負けを決めるのが競争。まあ、こういう遊びいっぱいありますよね。
うん。
で、次に、運。まあ、運でどうこうなる。だから、これも例えば『黒ひげ危機一髪』とか、まあ、剣どこに刺せば飛ぶかわかんないから運じゃないですか。あと、『すごろく』とかもサイコロの運だし。
あぁ、はい。
何が起こるかわからない。ジャンケンも運だと思いますし、その運ですね。模倣っていうのは、真似事なので、まあ、おままごととか、ヒーローのごっこ遊びですよね。大人の真似をしたり。まあ、真似をするのってやっぱり楽しいですよね。
はい。
で、最後の眩暈っていうのは、楽しくてクラッとするみたいな。前の3つとはちょっと違うことなんですけど、例えばブランコとか、ジェットコースター、滑り台みたいなのって、なんで楽しいかっていわれると、「ヒューってなる」とか、「うわぁってなる」みたいな。あと例えば手品を見たりしても「うわぁ」ってなったりするじゃないですか?
あぁ、そういうのも?
そう。「うわぁー」「ほー」「えぇ!?」みたいな。
(笑)。
ことと思っていただければまあ、いいと思いますね。それが眩暈。そういうのを作るっていう。この4つの組み合わせで構成されてるのが遊びっていうのが、難しくいうと言われてるんですけど。
ふーん。
まず、基本的に僕はゲームを作るときに、面白いゲームってこの競争と運のバランスがすごく取れているものが面白いと思うんです。
あぁ、どっちかが……運とかが、あんまり多すぎても少なすぎてもつまらなくなっちゃいますもんね。
その通りなんですよ。例えば、将棋とか好きな人いるし、ゲームとして人気もあるんですけど、将棋はほぼ100%強い人が勝つじゃないですか?
はい。
だから、弱い人が「ずーっと楽しくない」っていう状況が起きるんですね。
うん。
反対に「すごろく」も全部サイコロでやってると、勝ってもあんまり達成感がない。サイコロ分だけだと。
はい。
っていう中で、実力も発揮しつつ、運が左右して、僕の中では、例えば強い人と弱い人がそのゲームしたときに、10回中7、8回は強い人が自分の作戦とか技量で勝つんだけど、2回ぐらいは弱い人が勝つっていうバランスが一番面白いと思ってるんですよね。
へぇ。
そうすると、やっぱり「強い人を倒したぜ感」っていうので、その弱い人もずっとやる意欲があって、そのときの興奮も、「ついに倒した」っていう嬉しい気持ちが、それこそ眩暈に近い感情だと思うんですけど。
あぁ、なるほど。
「うわぁ、やった」っていうすごい嬉しい気持ちになると思うし、反対に強い人もずっと弱い人を倒し続けているよりは、本当は100%ずっと勝ち続けたいんだけど、「やられた」っていうことが起きたときに、さらにもう一回やりたくなったりとか、っていうおもしろさが発生する訳なんですね。
はい。
だから、ここのバランスを作るっていうのが、一番基本的なゲームを作るときに考えるポイントかなっていうのが1つありますね。
へぇ、面白い。
っていうのが、ベーシックなゲームの作り方の1つの理屈なんですけど、僕個人的に、ゲームって幅広いですから、遊びなんて自由ですし、色々あるんですけど。
はい。
僕が「最近作りたいな」って思って、よく考えてるのが、「負けても得する」っていうものを。
えっ?
すごく研究して、そんな遊びを作りたいなって思ってるわけなんですね。
えぇ、聞きたい。例えば、どういうものですか?
うちの子どもたちが、6歳と3歳の娘なんですけど、負けること大嫌いなんですよ。
うん、ウチもです。
オセロとか、やってあげて、僕が勝つとすぐ泣いちゃうとか。
はい。
下の3歳の子も、運で決まるトランプとかちょっとやったときに負けると全部グチャグチャにしちゃうみたいな。
わかる(笑)。
ことがね、あって。
はい。
最近の子ってわりと、情報も多いし、教育が充実してるから、結構完璧主義になりやすいって。
あぁ、そうなんだ。
間違うことも嫌いなんですよね。
うん、そうですね。
っていう傾向がある中で、1回負けて「つまらない」ってなると楽しくないし、これから大人になって社会に出てもね、そんなことだと結構つらいじゃないですか。
そうですね。
で、じゃあ、その子たちと楽しく遊べるゲームを作ろうっていうんで、日々遊びは職業柄考えるんですけど、例えば、最近ウチで流行ってるのが「こちょこちょジャンケン」っていう遊びがありまして。
はい。
ちょっと自分が軽く考案したものなんですけど。
知りたい。はい。
ジャンケンで負けただけで泣いたり、怒ったりする子たちなんですよ。
うん。
で、「こちょこちょジャンケン」は最初にめっちゃシュールな踊りがついてるんですけど。
(笑)。
まあ、あのこれ音声だけだから見せられないですけど。
残念(笑)。
「こちょこちょジャンケン、ジャンケンポンったら、ジャンケンポンっ」みたいな感じで言って、ジャンケンをするんです。
はい。
まあ、そのくだりはどうでもいい(笑)。
(笑)。
で、そのシュールな踊りをして、ジャンケンをするんですけど、勝った人が負けた人に「こちょこちょ」するんです。
あ、勝った人がするんですか? はい。
そう、例えば、これ家族4人でするんですけど、パパとママと娘2人で、その踊りを同時に踊って。
(笑)。
「ジャンケンポン」って出したときに、誰か2人が勝って、2人が負けた場合、勝った2人が負けた2人を「こちょこちょ」するんですね。
うん。
で、その「こちょこちょ」された2人は、「助けてぇ」とか「キャー」って言いながら、逃げて悶えるみたいな。
うん、うん。
で、終わったらまたその踊りをやって、「こちょこちょジャンケン」をするってことを永遠と繰り返すんですけど(笑)。子どもたちってくすぐられるの好きなんですよね、まあ、ウチはね。
なるほどねぇ、はい。
で、くすぐるのも好きなんですよ。
うん、うん。
だからこの「こちょこちょジャンケン」上、勝ち負けが一切関係がなくなってくるんですよ。
うん、うん。
負けても、「キャー」って言って逃げるのが楽しいし。
うん。
で、例えば、3対1でパパだけ負けたら、3人でパパだけを「こちょこちょ」するのは楽しいし。
(笑)つらい。
そう、で、これは4人あいこになることもあるじゃないですか? グー、チョキ、パーとかで。
はい。
あいこになったら、全員が全員を「こちょこちょ」するんですよね。
あぁ、面白い。
そこが一番盛り上がるんですけど。
確かに(笑)。
で、これをずーっと繰り返してたんですよ。
はい。
毎日。そしたら、なんかジャンケンの勝ち負けを気にしなくなってきたんですよね。
あぁ。
普通のジャンケンも。
うん。
で、これがなんか結構、子どもがそういう性質があったからっていうのも1つあるんですけど、なんか作りたい遊びのヒントの1つというか。
うん。
ジャンケンが勝ち負けっていうルールがある中で、勝ったら「こちょこちょ」できて楽しいけど、負けて「こちょこちょ」されても楽しいわけなんですね。
うん、うん。
で、これのようなことを、例えば、大人も楽しめるゲームとかに応用すると、「ゲーム上は負けたんだけど、色々気づきがあったよね」とか。
あぁ。
負けたことが、普通のゲームって「下手だ」とか、あるいは「ちょっと頭が悪い」とか、そういう風に思われちゃうかもしれないじゃないですか、負けるとね。
あぁ、そうですねぇ。
将棋とかで負けるとそうなっちゃうけど。
うん。
そうじゃなくて、「負けたほうがおいしい」とか、「負けた人が一番ウケ取れたよね」みたいなこと、っていうのをすごくやりたいんですよ。
えー、やってほしい。私、めちゃくちゃ負けず嫌いなんですよ。
あー、はい、はい。
負けたくないからゲームしないっていうぐらい負けず嫌いなんですよ。
うん。
だから、もし負けても全然気にならなくなるゲームがあったら、それはやりたい。
そうですね。だから、最近作った具体的なゲームの話をすると。
はい。
『かけアイ』っていうカードゲームを作りまして。
はい。
それは、ビジネスアイデアを大喜利で出すゲームなんですね。
うん。
お題のカードを2枚引いて、その2つを組み合わせると必ずお題になるんですね。
なるほど。
例えば、「よく眠れる文房具」とかっていうお題だったら、そんなのあるかわかんないけど、「よく眠れる文房具ってどんな商品?」みたいなのを皆で大喜利するっていうゲームなんですけど。
はい。
この勝ち負けの付け方にすごくこだわりをもってやったんですが。
ふーん。
普通そういうゲームって、今までだったら、一番いいアイデアとか、面白いことを言った人が得点を取りますよね? 普通のゲームだったら。
うん、そうですね。
だけど、このゲームに関しては、その皆のアイデアを出したあとに、「ショウカード」っていう、あのショウって受賞するの、まあ、プライズの。
アワードの。
アワードの「賞」。
うん、うん。
で、その「賞カード」は色々あって、まあ、もちろん「売れそうで賞」みたいな真っ当な賞もあるんですけど、例えば「笑えるで賞」とか、「ちょっと意味わかんないけど天才っぽいで賞」とか。
(笑)。
あと、「お題と関係ないで賞」とか。
(笑)。それでいいんだ?
「普通で賞」みたいな。
おぉ。
そういう決していいことを言った人が勝つゲームじゃないんですよ。
えぇ、めちゃくちゃいい(笑)。
で、そうすることで、別にアイデア脳が強い人が勝つ仕組みにはなっていないのと、だから、いいことを考える必要がない。あの、外していったほうがゲーム上は点を取れる可能性があるわけなので。
はい。
まあ、例えば、「よく眠れる文房具」って言われたときに、「枕付きペン」みたいなのを言うと、枕付きペンなんてあるわけないじゃないですか、「そんなのどうやって書くんだ?」みたいな。
うん。
で、それがいいやつを言った人が勝ちになると、みんな緊張しちゃって、何も思いつかなくなるんですよね。
うん、うん。
だけど、それが「笑えるで賞」っていうものがそこに出る可能性があるから、「枕付きペン」とかを率先して出しておいたほうが、勝てるかもしれないっていうことで、「アイデアっていうのは、とりあえず最初何でもいいんだ」っていうのも理解できるっていう。
確かに。
そういう仕掛けのゲームなんですけど。
それって、「何とか賞」っていうのは、最後に引いて、それは多数決で決めるんですか?
あー、はい。
「普通で賞」っていうのが出たら、どれが普通か。
あ、そうですね。それは親が毎回変わっていくんですけど。
あー、はい。
皆で、とりあえず自薦他薦問わず推薦して、「『笑えるで賞』だったらこれかなぁ」みたいに推薦して、最後は親が独断で決めるっていうルール。
あ、なるほどねぇ。
なんですが、結局、ゲームって勝ち負けも何もなければ、なにか向かう意欲っていうのは下がるので、ゲームは試合だから、それである以上、「最後に誰が勝ったね、パチパチ」は残しておきたいんだけど。
うん。
負けても負けるが勝ちっていうか、「負けた人が結局ウケをいっぱいとってたよね」みたいなことになると、そもそもそのテーマでいうと、アイデア出しが好きになってくれたりとか、そういうことが起こるんですよね。
確かに。めちゃくちゃいいですよね。よくブレストで、「何でも気にせず言ってください」とか言っても、結局最後にいいやつ採用されちゃったり、「いいね、いいね」みたいになるから、言えなくなっちゃいますもんね。
もう本当にそうで、会社っていう現場だと、評価が気になるから、それで皆ドキドキして、そもそも言えないから思いつかなくなったり、あとは、その場に絶対的に頭が良かったり、立場が上だったりする人がいると、なんかその人が言うと「いいね、いいね」ってなったり、その人がいることで緊張して言えなくなったりするんですよ。
うん、ある、ある。
だから、まず一発目の基準として、もしかしたら、一番普通の「もう既にあるじゃねぇか」みたいなことを言った人が勝てるかもしれないということにしておくと。
(笑)。
「もうあるじゃん」みたいな。
めちゃくちゃいい。
だから、「何かを真似してるで賞」みたいなのもあるんですよね。
えー、めちゃくちゃいい(笑)。
だからパクったほうが勝ちっていう。
パクってもいいんだ。
「もうあるじゃん」ってよく会議の現場で、突っ込まれて。
ある、ある。
叱られたりする原因にもなるじゃないですか。それが結局、アイデア文化っていうものを妨げているんだと思うんで、そういう風に何でも出しているうちに、結局いい考えが皆で出せるわけだから、そういう風にしたいなって思って、まあ、そのゲームを作りました。
えー、なんかこれ多様化の社会に、なんか加速するようなアイデアですね。
そうですね。だから……
評価軸がいくつもあるってことだから。
だから、負けた人が最後持て囃されて、勝った人が多少悔しくなるっていうか。
(笑)。
「なんか勝ったけど、アレ?」みたいな、「そっちのほうがおいしかったな」っていうようなことをやりたいっていうのが、僕も結構色んなコンプレックスあって育ってきたような子どもだったんで、そういうことを積極的にやって行きたいなと思ってますね。
なるほど、すごい面白い。ありがとうございます。
はーい。
そしたら、じゃあ、今日はこの辺りでね、終わりにしたいと思います。はい、以上、栃尾江美と。
高橋晋平でした。
<書き起こし、編集:折田大器>