「違和感」って何でしょうね? 新しいものを作ったり、本物を見極めたりするのにとても有効な気がします。また、素人であるほどちゃんと感じることができたり、専門家だからこそ気づいたり……。それはなかなかに深い問題。違和感についてとりとめもなく話してみました。ゲストは引き続き、『ひらめきEX』編集長の宮田匠さんです。
クリエイティブの。
反対語。
こんにちは。ストーリーエディターの栃尾江美です。
こんにちは。「ひらめきEX」編集長の宮田匠です。
このポッドキャストは、私、栃尾江美が、好きな人やお話したい人をゲストにお迎えして、クリエイティブに関することや哲学的なことを好き勝手に話す番組です。今日はですね、「違和感とは?」。「とは?」の話をしたいと思います。なんでこれを疑問に思ったんですか?
企画とかしていて、新しいアイデアだったり、新しいものの見方を見つけるとき、あるいは出会うときに、違和感というものが割とトリガーになるんじゃないかなと思って、「違和感ってなんだろう?」というテーマをぼんやりと挙げさせてもらいました。
そもそもね、違和感って何なんでしょうねぇ。でも、こう「しっくりこないもの」ですよね。
そうですよね。自分の中でしっくりこない。
自分の中で、そうそう。だいたい人から言われたものとか、目にしたものとか、外にあるんですかね?自分の中にもあるかな?
自分の中にもあるかもしれないですね。
私が思ったのは、「絵が上手くなりたいな」とぼんやり思っていて、「漫画倶楽部」という漫画の描き方を教えてくれるところに、ちょっと遊びっぽく行ったんです。当然、漫画を描くプロの人とか、漫画を上手に描かれる人がいらっしゃるので、漫画風の絵を教えてくれるんです。例えば、「髪の毛はこうやってベタに塗るといいよ」とか、「ツヤをこういう風に白く残すと髪の毛っぽくなるよ」と言われたんですけど、すごく違和感があったんですよね。「自分がやりたいのはこっちじゃない」というのは、後からわかったのかなという感じ。「私は漫画が描きたいんじゃなくて、イラストが描きたいんだ」というのが後からわかったんですけど、それは事実とかではなくて、私がやりたいこととズレてるなっていう違和感だったんですけどね。
そうですよね、納得できなかったという?
納得できなかったのかなぁ? 納得……うーん、しっくりこなかったんでしょうね。言われた通りに、そこの技術を磨くということが私にとって、しっくりこなかったんでしょうね。
しっくりくるかこないかって面白いですよね。
ボヤッとしすぎだけどみたいな、違和感よりわかんないみたいな(笑)。
(笑)。違和感。「和」になってない、調和してないってことですよね?
あぁ、そうかも。
辞書で引いたわけじゃないですけども。違和感……。
『突破するデザイン』っていう本、ご存じですか?
中身はちょっとわからないですけど、はい。
イノベーションの起こし方みたいな話なんですけど、その中で推奨されているやり方が、最初少人数でディスカッションして、批判もいっぱいして、それこそ「しっくりくるもの」を事業として立ち上げるというような論理というか、そういう話なんですけど、最初のメンバーがすごく大事なんですよ。ちゃんと同じ方向を向けるメンバーじゃないといけなくて。それをどうやって見つけるかというと、違和感が一致する人なんですって。
あぁ、なるほど。へぇー。
すごくないですか、この言い方。
面白いですね。「共感するものが一緒」とかではなくて。
じゃなくて、目的が一緒だとかでもなくて、違和感が一緒な人。
それ大事そうですね、そう言われるとかなり。仕事だけじゃなく、色々な人間関係において。
そうですよね。私は本の内容について細かいことは全然覚えてないんだけど、すごいグッときたことはやっぱり覚えていて、その違和感が共通する人って確かにすごい色んなことが共通しそうだなと思いました。
そうですよね。
そこに色んな意味が含まれているなと思って。
違和感を感じるポイントが一緒ってことは、ある程度近い文脈で生きてきていたりとか、ある程度近い価値観だったりとか、判断基準とか、レベル感の中で生きてきているってことですもんね。
そうなのかなぁ……でも、そうか。私がちょっと思ったのは、全然別の道、全然別の価値観で生きてきたとしても、ここに違和感を感じるんだということに本質があるのかな?と思ったんです。
交差するっていうことですね。
そう。例えば、私はNHKの『SWITCHインタビュー』っていう番組が好きなんですけど、ご存じですか?
いえ、知りません。ちょっとわかりません。
全然違う職業の人とか、全然違うジャンルの人が対談するんです。前半はAさんがBさんに質問して、後半はBさんがAさんにインタビューするという、インタビューをスイッチする、『SWITCHインタビュー』って言うんですけど、例えば、全然違うことをやっているのに、同じ哲学を持っていたりするんですよ。それで見ている私には全然わからないのに、「めっちゃわかる」って二人でめっちゃわかり合っているっていうことがよくあって、そういうのに近いかな、って感じです。
あぁ、なるほど。
違和感の話とはズレましたが。
いえいえ。
だから、全然違う道で来たのに、同じところに違和感を感じるってことは、きっと絶対ここに何か本物があるんじゃないかみたいな掘り当て方じゃないですかね。
なるほど、そうですね。デザインとかもそう。一緒にプロジェクトをやっているときに、専門じゃない人がそこに違和感を感じるときって、結構重要だったりしますもんね。「このパッケージ、専門じゃないけど、なんか違和感ある」みたいなことを結構言われたりするんですけど、その人はその人で、それなりにその人の道では専門で。
なるほど、別の専門家で。その専門の道にいる人は、慣れちゃってわかんなくなって、麻痺しちゃってるけど、別の専門の人にとってみたら違和感があるってことは、たぶんそこの慣れちゃっているところに何かおかしな文脈があるってことですよね、きっと。
そうだと思うんですよね。しかもAさん、Bさん、Cさん、それぞれ違う仕事をして、違う役割を持っているんですけど、共通して「このパッケージ、若干なんか違くない? なんとなく良さげなんだけど、なんか……なんか違くない?」(笑)。
うまく言葉では言えないけど(笑)。
「なんかってなんなん?」みたいな話がパッケージに関わらず、ちょくちょくあるので。でも、「そうやな」と思って、栃尾さんの話を聞いていて。共感するポイントがめっちゃ話に上がるってあんまりないかもなって思って。
違和感はみんな、感じるところは結構重大なのかもしれないですね、そうするとね。
そうですね。特に人間関係とかはそうですね。
人間関係の違和感? 例えば、どういうことですか?
なんかあの人の言ってること。
「うさん臭いぞ」みたいな(笑)。
「悪くないし、言っていることはわかるけど、なんかフィーリングが違うよな」みたいなことってないですか?
ありますね。ありますな(笑)。
結構一致したりしないですか? そういうところって。
他の人と?
一緒に仕事しているメンバーとか。例えば、チームで提案に行くとするじゃないですか。話を聞きに行ったときに、「なんか違くなかった?」みたいな(笑)。
それは言語化できないんですか?
言語化できないときもあるなと今思っていて。
へぇ、言語化できないことあるかなぁ。私、人に関しては言語化しちゃうような気がしますけど。
人に関して言語化。「こうだからちょっと違う」みたいなことですか?
「ここのこう言っていたことおかしいよね」とか。「目線がおかしかったよね」とか。
なるほど。
また思い出したんですけど、これもポッドキャストで言ったかもしれないけど、「最初の1秒、最初の何となくが正しい」そんなような本があって。「最初の1秒の何となくが正しい※」、違うな。そんなような書籍があって、私大好きなんですけど、タイトル覚えてないっていうね(笑)( ※『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』 マルコム・グラッドウェル著 光文社)。
(笑)。
その本の最初のエピソードで、世界中に何体もある、なんとかの像っていうのがあるんですね(笑)。
(笑)。
なんとかの像っていうのがあって、完全体で見つかることはまずないんですよ。でも、何体かあることはわかっていて、それがほぼ完全な形で発掘されたと。それで、美術館のスタッフの人たちが色んなデータを元に緻密に調べたところ、すべてのデータが合致するから、ほぼほぼ90%本物だろうと判断したわけです。だけど、美術館のスタッフじゃなくて、美術の専門家、オーソリティと言われる人がその像をパッと目にした瞬間に、「んっ、なんか違う」ってみんな等しく思ったんですって。でも、うまく言語化できなくて、「ちょっと手の角度が違う」とか、「ツヤが違う」とか、「色が違う」とか、みんな言うことがバラバラなんですけど、とにかくみんな違和感を感じたと。でも、偽物だっていう証拠を出せないから、結局それは美術館にあるんですけど、「偽物の確率が極めて高い」というような説明書きがあるまま保管されているっていうのを聞きました。それはだから、たぶん偽物なんだろうなって私は思うわけなんです。それを読んだ限りね。それは実話みたいなんですけどね。
そのパーツパーツで見つかっているものからすると、ありえない形をしている?
いや、形はたぶんデータで見ると本物なんですよ。だけど、色んなものを見慣れている専門家が見ると、「なんか変な気がする」みたいな、「上手く言えないけど」みたいな感じって言っていました。だから、そこに本当のことがあるのかなという気がしますね。
そうですね。掘っていく余地があるというか、面白そうなポイントですよね。
でも、それって気づかなかったら、もう無理ですよね。 難しい。
難しいですよね。えっ、はい(笑)。なんか頭の中がグルグルし始めて。
だけど、あんまり思考に頼らないのは大事かもしれないですよね。
直感的なものですか。
そうそう。「理屈でこうだから正しいはずだ」みたいなことに、そういうのを拠り所にしちゃうと違和感に気づけない、というのはありそう。
ありそうですね。違和感を感じるときってあんまり論理的に違和感、「これすごいこうこうこうだから違和感」ってならないですもんね。「このパンおいしそうやけど、なんか違う」みたいな(笑)。
(笑)。いいもの入っているけど、なんか違うみたいな?
「みんなめっちゃ美味しそうに食べてるけど、なんか違うよな、なんか違うぞ」みたいな。ありますね。
違和感(笑)。企画で結構大事なんですね、違和感って。
企画ですか。
うん、企画出すときとか、決めるとき、詰めるとき。
進めていくとき、すごい大事な気がしますね。違和感を潰していくっていうのでもそうですし、なんか違和感ある……仮説とのズレなんだと思うんですけど、企画しているときの違和感って。そこに本質的に、声としては返ってこないけど、本当はここ大事なんじゃないかというポイントがあったりとか、イメージしている使われ方をしていなかったりとか。
もうリリースした後にですか?
そうですね。あと、なんでこれがこんなところに置いてあるんだろう、だったりとか。
商品の並べ方ってこと?
並べ方とか。「なんか違うな」と思う瞬間には、すごい発想のヒントがいっぱいあって楽しいなっていうのはありますね。
へぇ。そういう違和感に出会ったときには、潰すほかにも、ヒントにするっていうのがあるわけですね。発想のヒントにする。
そうですね。例えば、問題としての違和感が見つかるときと、全然考えていなかった世界に出会う瞬間みたいなのがある気がしていて、違和感というのには。自分が見ている世界とは全然違う世界があるっていうのに、気づかせてくれる瞬間っていうのは、結構違和感がトリガーになっているときが多いなっていう。
確かに。それがなかったら、ただスルーしちゃうってことですもんね?
そうですね。
何かに気づくというのは、最初は違和感の形であることが結構あるということですね?
はい、まさに。
そうか。そうかも、「意外」みたいな意味で。
はい。
ちょっと違うなってことですもんね、自分が知ってるのとね。そうすると、新しいことで気づくっていうのは、「自分の常識的なこと」や「今までの固定観念みたいなこと」からズレているみたいなことと、「自分がこれは本質だと思っているみたいなこと」や「身体で感覚的にここに帰着しないと困るみたいなこと」からズレている、やっぱり間違いに気づくための違和感みたいなのと、2種類あるのかなと言う気がしたのですけどね。
そうですね。
面白い違和感と、嫌な違和感っていうか(笑)。
そうですね、たぶん僕は面白い違和感のほうが見つけるのが楽しいんだと思います。
なるほど。
そういう違和感って、普通にしていてスッと気づくものもあれば、むちゃくちゃ見てるから気づくものもあると思うんですよ。
へぇ。
例えば、前々回(#171 日常を楽しくする工夫)、「電車の中でどういう立ち方をすればいいか」というのがあったじゃないですか?
はい。
ぼーっと見ていたらあんまり気づかないんですけど、「どうやって立てばいいのかな」ってよくよく考えて見ていたら、変な人がいたりするわけじゃないですか。
はい、いますよね、きっと。
なんかそういうのは、大事な気がするというか。
なるほどね。変なものを見つけるというか。
「なんか普通にしているのに、あの人だけお箸の持ち方がすごく歪(いびつ)だよね」とか。「どんな物語があったんだ」とか。そこが好きなんですかね。
なるほどね。違和感をちょっとまた探してみようかなと思っています(笑)。
はい(笑)。
はい、じゃあ、以上、栃尾江美と。
宮田匠でした。