
先週でラストのつもりでしたが、もう1週収録お願いしました! これは、井上さんから若きクリエイターへのメッセージ! 自分の作品(作家性)を守るためにしていることを、ぎりぎりのラインで教えていただきましたよ!(クライアントから理不尽な修正を依頼されたとき……とかね!)
栃尾クリエイティブの。
井上反対語。
栃尾こんにちは、ストーリーエディターの栃尾江美です。
井上こんにちは、造形作家のパンタグラフ井上です。
栃尾このポッドキャストは私、栃尾江美が好きな人やお話したい人をお呼びして、クリエイティブに関することや哲学的なことを好き勝手に話す番組です。はい、えっと、クライアントワークについて。
井上うん。
栃尾なんか……(笑)。
井上(笑)。
栃尾なんか話したいことがあるというか、ちょっと……。
井上そうですね。
栃尾はい、お話があるってことで。
井上うん、今ね、とっちーさんと。
栃尾へんな、へんな振り方(笑)。
井上いえいえ、最後に、先ほどのね、前の回の最後に「いいクライアントとは」みたいな話になりましたけれども。
栃尾うん、うん、はい。
井上そのぉ、やっぱりいろんなプレッシャーがきたりとか。
栃尾はい。
井上不条理な要望がきたりとか。
栃尾うん、ありそう。
井上ありますよね。
栃尾ありますよね。
井上で、若い頃はわりとそれに対してまともに反応して。
栃尾はい。
井上「えー、そんなのできません」とか。
栃尾うん、うん。
井上「うー、わっかりました」とか言いながら(笑)。
栃尾(笑)「うー、わっかりました」ね。
井上やっていたりとか。
栃尾ある、ある(笑)。
井上まあ、ケンカになっちゃったりすることもありますよね。
栃尾えー。
井上ケンカっていうか、電話でちょっと言い合いになったりすることも。
栃尾それってあれですよね、いわゆる代理店さんですよね?
井上うーん、まあ、そうですけども、直もありました、私。
栃尾直もあります?
井上直もありました。「もう、このお仕事さようなら」って思いながら、心の中で言いながら、思いながら、電話でちょっとこう叱っちゃったりしたこともあったんですよねぇ。
栃尾へぇ。はい。
井上ただ、ちょっともう今そういうことは全然できないというか、やってなくて。
栃尾ふんふん。
井上色んな方法があって。
栃尾なるほど。
井上やっとその自分も歳をとってくると、色んな状況もわかってきて。
栃尾ふんふん。
井上「あ、クライアントさんのこの無理なオーダーはこの人が言いたくて言ったんじゃないんだ」ってこともありますよね、きっと。つまり……
栃尾代理店とかは特にそうですよね。
井上そう、そう、そう。だから、途中経過を見て、「どうですか?」って言われて、クライアントさんは「何か言わなきゃ。気の利いたことを何か言わなきゃ」と思って、「ここはちょっとこの色は」って言っちゃうんですよね、きっと(笑)。
栃尾あぁ、なるほどね。
井上そういうこともあって、あのぉ、私がこうね、言われたときは、「この色を変えてください」とか、「この造形ちょっとこうなりませんか?」って言われたときは、「あ、わかりました。検討します」ってだけでスルーしてしまうってことが結構多いです、最近は。
栃尾うん、うん。
井上で、忘れてあげるとか。
栃尾うん、うん。
井上良いモノを作るために忘れてあげるとか。
栃尾なるほどね。
井上はい。聞いたフリだけして、スルーしてあげるとかっていうことが結構ありますね。
栃尾それテクニックってことですね。
井上あぁ、そうです(笑)。
栃尾私CMのディレクターさんにインタビューしたことがあって。同じことを言ってました。
井上あ、ホントですか?
栃尾「クライアントさんがこうしてほしい」って言ってくるのを、代理店さんが言ってくると。
井上はい。
栃尾だけど、「うん、うん、わかった」みたいなことを言って、直さないでもう1回出すんですって。
井上はい、はい。そうなんですよ(笑)。
栃尾そう、そう(笑)。それで、「直したくなかったんだな」って相手が汲んでくれたりすると。
井上あぁ、なるほど、なるほど。
栃尾うん。で、どうしても直したかったらもう1回言うし。
井上うん、うん。
栃尾「こっちの意思が伝わったら、もう言ってこないし」みたいな。本当に忘れてるのかもしれないですけど。
井上うん、うん。
栃尾同じこと言ってましたね。
井上そうですよね。だから、えっとー、それはとてもいいと思います。
栃尾(笑)。
井上クライアントと作る側って、どうしてもお金払ってる側と受け取ってる側っていうのもあって、上下関係になりがちなんですけども。
栃尾そうですよねぇ。
井上やっぱり、良いモノを作るにはフラットじゃないといけないですよね。
栃尾フラットになれるもんですか?
井上うんと、なかなかやっぱり場合によりけりですけれども。
栃尾うん。
井上高圧的になられてしまうと困ることが多いですから。
栃尾はい。
井上僕は強制的にでも、無理にでもそこはなるべくフラットに近い形に持って行こうとする努力はしますね。つまり、例えば、「もっとこういう風になれないか」って言われたときに、今の方法を試してスルーしてダメだったら、「いや、でも、それでも絶対にこうやってくれ」っていうのが「もう上の絶対命令なんだ」って言われたら。
栃尾うん。
井上「わかりました。なんとかそこはしますけど、その代わりここの部分はこうしましょう」って必ずこっち側にも主導権が少しだけある、まあ、そこは対等になれるようなですね。
栃尾はい、はい。
井上こう条件をもちかけて、「わかりました。じゃあ、ここはこうだけど、そこはそちらの意見を呑みましょう」っていう風になるように、物々交換ができるようにして、こちらの立場が下になりすぎないような工夫は、なるべくしてますね。そうしないと、たぶん、どんどん来ちゃって。
栃尾はい。
井上結果的に向こうも困ると思うので。
栃尾良いモノができないっていうことですか。
井上そうですね、良いモノができないし、そうですね。「あ、言うこと聞いてくれるんだ、やってくれるんだ」ってことになると、あちらの方ですね、自分が作ってる風に錯覚してきちゃうんですよね。
栃尾うん、うん。
井上自分が言ったことが形になってくるんで、こちらがオペレーターになって。
栃尾なるほど、なるほど。
井上自分がディレクションしてるんだっていう風になってきちゃうので、そういうことを避けるために。それだとやっぱり良いモノできないので、「こっちが一応主導権を何割かは持ってやってますよ」っていうメッセージは送るようにしていますね。
栃尾へぇ、それはさっきの物々交換じゃないけど。
井上はい、そうです、そうです。
栃尾えっと、何て言うんですかね?
井上何て言うんでしょうか(笑)。
栃尾「あなたのオペレーターではないですよ」というサインであると。
井上そうです。「あ、この人言うこと聞かないよな」っていうのをどこかでわかってもらわないと。
栃尾(笑)はい。
井上悪意なく伝えなきゃいけないですよね、それをね。っていうところを気を付けてます、最近は。
栃尾えー、自分の仕事の場合でイメージ湧かないですね。なんか、交渉はしますけどね、その場で。
井上はい、はい。
栃尾たぶんそういうことじゃないんでしょうね。
井上うーん、そうですね。やりながらなので、なかなかちょっとこう難しい部分はありますけれども。
栃尾ふーん。
井上言われっぱなしにさせてあげないっていうか。
栃尾(笑)。
井上言わせっぱなしか。
栃尾言わせっぱなし。
井上こっちも言ってあげて。
栃尾うん。
井上なるべくフラットに。
栃尾なるほどね。
井上うん。
栃尾私が今までやってたのって、例えば「1を3に直してください」って言われた場合に、「いや、3じゃなくて2ぐらいにしましょうよ」ぐらいの交渉はするんですけど。
井上あぁ、はい。
栃尾そうじゃなくて、「いや、こっちのAをBにしてくれたら、3にしてあげるよ」みたいなことってことですよね?
井上(笑)あぁ、そうです、そうです。
栃尾えー、どうすればいいんだろう、それって(笑)。
井上うんと、技術的には、例えば、その「1を3にしてくれ」って言われて、「じゃあ、それなんとか呑みますけども、じゃあ、AをBにしましょう」と、AをBにするのは、僕にとってはどうでも良かったりするんですよ。
栃尾なるほどね。
井上どっちでも良かったり。その代わり、言われた通りにやらないぞビームを出すわけですよね、そこで(笑)。
栃尾うん、うん。
井上そうすると、次の要望がそんなに来なくなるっていう。
栃尾めっちゃテクニックですね。
井上(笑)そうですね、もう。
栃尾(笑)。
井上なんとかもう掻いくぐろうと思って、こういうことばっかり考えてる時期もありましたけれども。
栃尾へぇ。それは、その今の例で言った「AをBに」っていう、そもそものAはクライアントが指定したものじゃなくてもいいんですか?
井上もちろん、そうです。
栃尾自分がAってしたのに、やっぱりBにするでもいいってことですか?
井上いいと思いますね。
栃尾へぇ。
井上「1を3にするんだったら、ここに影響はあるかもしれないので、ここもこういう風にしましょうよ」とか。
栃尾なるほどね。
井上「辻褄が合わなくなってきちゃう、全体の辻褄が合わなくなっちゃうんで、ここで微調整しましょう」とか。
栃尾うん、うん。
井上なるべく、「はい、わかりました」ってならないように。
栃尾なるほど、なるほど。
井上しないと、あのぉ、いけないかなと思いますね。
栃尾はい、はい。
井上特に、若い人、仕事始めたばっかりとか、フリーランスになったばっかりとかの人って、自分もそうでしたけど、なかなか言い返せないとか。
栃尾そうですね。
井上提案しづらいとかっていうのもあると思うんですけども、ちょっとずつ練習する必要あるかなぁと思いますね。
栃尾うん、うん。辻褄が合わないっていうのはいいかもしれないですね。
井上うん、うん。あ、言い訳として(笑)。
栃尾そうです、そうです。私もこう文章を、まあ、文章って誰でも直せるんで、極端な話。
井上うーん。
栃尾結構直されちゃうんですけど、そうするとやっぱり、私の書いていたリズムがすごく崩れるみたいなことがあって。
井上はい。
栃尾それは、「内容は変えていただいていいけど、もう1回最終的なリズムは私が直させてください」みたいな感じにすると、もう無闇には直せなくなっちゃう、相手が。
井上うん、うん。
栃尾っていう経験はありました。
井上なるほど、なるほど。
栃尾それは全然意図的にではないですけど。
井上うん、うん、そうですよね。
栃尾はい。
井上全体のバランスを見れてない可能性がありますから、あちらさんが。そうですよね。
栃尾はい、はい。
井上そこを調整してあげるっていうことが必要かもしれませんね。
栃尾へぇ、なるほどねぇ。
井上っていう、はい、よくやってます(笑)。
栃尾ふーん。今はもうじゃあ、そしたらケンカしたりとかはないですか?
井上はい(笑)。
栃尾(笑)。
井上ケンカはなるべくしないようにしております(笑)。
栃尾ふーん。じゃあ、その結構、理不尽だなぁと思う直しとかも上手にかわせるように。
井上そうですね、でも、これはいまだにやっぱりありますかね。特に大きな会社になりますと、チェックが何重にもあると。
栃尾そうですね。
井上はい、部長チェック、常務チェック、課長チェック、社長チェック。
栃尾うん。
井上全員のチェックを通らないと通らないっていうのもありますから、なかなか難しいんですけれども。
栃尾はい。
井上もうちょっと、それは「もう楽しむしかないな」っていう。
栃尾あぁ、「こうきたか」みたいな(笑)。
井上そうです、そうです。もうそれしかないな。「あ、この人はこういうことを考えてこう思ったんだな」と。
栃尾はい、はい。
井上で、こちらは「ここを突っ込まれるだろうな」っていうトラップをいくつか仕掛けておいて。
栃尾わかりやすく。
井上はい(笑)。
栃尾(笑)。
井上守りたい部分は、もう手をかけられないように。
栃尾はい、はい(笑)。
井上「わかりやすいトラップに罠にかかるように」っていうことをすることもありますね。
栃尾(笑)すごい。
井上だから、そうなんです。プレゼンとか企画書とか、作る前のラフとかに完全なものを書かないというか。
栃尾はい、はい。
井上100%のものを書かないというか。
栃尾ツッコミどころを入れてあげるみたいな(笑)。
井上そうですね。「そういうことをやってたな」っていうのを今、話をしながら思い出しました(笑)。
栃尾へぇ。じゃあ、そこにこう部長とか、社長とか常務とか、わからないけど、その辺の人をひっかけておく(笑)。
井上ひっかけてですね。
栃尾(笑)悪い、悪いやつみたい(笑)。
井上(笑)そうですね、そうそう上手くいかないんですけども。
栃尾そうですよね。
井上うん、ただまあ、100%を見せておくよりは、ちょっと不完全なものを見せておいて。
栃尾はい。
井上「できあがったものが100%であれば、向こうも納得するでしょうから」ってことで。
栃尾うん、うん。
井上最近はこう力加減をするようになってきました(笑)。
栃尾なるほどね。本当に全然価値観の違う、まあ、同じ会社とはいえ色々価値観の違う人のすき間をすり抜けていくってすごい大変ですよね。
井上そうですねぇ。すごく難しいんですよ。
栃尾普通に考えて。
井上えぇ。なかなか難しいです。
栃尾よく案出しとか、デザイナーさんも何案とか出したりするじゃないですか。
井上はい、はい。
栃尾そういうのって、まあ、捨て案みたいなのがあるとか。
井上あります、あります。
栃尾なんかあと、極端な案を入れておいて、間の案を入れるとか。
井上はい、はい。
栃尾そういうのもやってますか?
井上すごくやってますね。
栃尾(笑)。
井上提案はもう何案も入れてますね。
栃尾あ、そうなんですか。
井上はい。で、「本当にこれがやりたいんだけどな」っていう案を2番目か、3番目にもってくるように。
栃尾順番で。
井上はい、はい。
栃尾はい、はい。
井上にしてやってますねぇ。
栃尾何番目中の2番目、3番目ですか? 何案あるんですか?
井上8個ぐらい。
栃尾すごっ!
井上の中の、1番最初にやりたいやつをもっていかないと。
栃尾うん、うん。
井上2番目か、3番目に潜らせておいて、で、最後の3つぐらいはもう、あの、まあ、クソみたいな案をですね(笑)。
栃尾(笑)飛び道具的な。
井上ダメ案を。そういう案を入れておいて、ちょっとツッコミどころも入れておいて。
栃尾うん、うん。
井上2番目、3番目を選びやすくしてあげるっていう。
栃尾「やっぱアレだったよね」みたいな。
井上そうですね(笑)。
栃尾へぇ。なるほどねぇ。
井上うん。
栃尾それ本当にクライアントさんが聞いてたら、そういう目で見ちゃいますよね。
井上まずいですね、これね(笑)。
栃尾(笑)。まずいかもしれない。でも、そういう……、なるほどねぇ。
井上うん。
栃尾そういうクライアントワークの正面から対決しないみたいなのは、やっぱり段々身に付いてくるっていうか、大事なんでしょうね。
井上そうですね。あのぉ、本音でしゃべらないとか。
栃尾(笑)どんどん悪い顔になってる。
井上悪い顔になってますね(笑)。
栃尾(笑)。
井上本当にそうですよね。そう、ちょっとズル賢くないと自分のクリエイティビティ守れないかなってときも、そういう風に感じることも実際にあるので。
栃尾はい、はい。
井上それを、掻いくぐるために、クライアントさんからこう言われたときに、スルーしてあげるとか、ちょっと馬鹿なフリをするとか。
栃尾ふーん。
井上「あ、わかりましたぁ」って言ったんだけど、なんか理解していない顔をするとかですね。
栃尾(笑)。
井上なんか色んなことを駆使しながら、クリエイティビティをなるべく守るっていう。
栃尾なるほどねぇ。
井上結果、クライアントさんにも良いモノが提供できるっていう信念の下。
栃尾確かに。
井上やることがあります。
栃尾そのほうが、良いモノができるってことですもんね。
井上そうですね。そうだと思います(笑)。
栃尾確かに。井上さんのほうがずっとやってるプロなわけですからね。
井上そうですかね。でも、クライアントさん、社長さんであるとか。
栃尾はい。
井上何も情報を得ないまま見た方の意見も確かに大事なので。
栃尾うん、的を射ている。
井上もちろん、無視はしないですけどね。そこも参考にしつつ、ということももちろんありますけれども。
栃尾そうですね、もっともだと思えば、ちゃんと受け入れてってことですね。
井上はい、っていうちょっとフォローを入れさせてください(笑)。
栃尾(笑)。
井上実際、そうです。
栃尾はい。なんかクライアントワークで悩んでいるクリエイターの方とかの参考になると本当にいいですよね。
井上そうですね。
栃尾世の中に良いモノが溢れていったら、いいなと思います。
井上そう思います。
栃尾ということで、じゃあ、そろそろお時間でしょうかね。
井上はい。
栃尾えっと、色々長くお話しいただきましたけど、どうもありがとうございました。
井上ありがとうございました。
栃尾以上、栃尾江美と。
井上パンタグラフ井上でした。
<書き起こし、編集:折田大器>