先週に引き続き『ひらめきEX』編集長であり、『ビジネスフレームワーク図鑑』の著者である宮田匠さんをゲストにお迎え! 今回は、わたくし栃尾が「小説を写経している」というできごとから、写経(文章を書き写すこと)の良さについて語っています。
クリエイティブの。
反対語。
こんにちは。ストーリーエディターの栃尾江美です。
こんにちは。「ひらめきEX」編集長の宮田匠です。
このポッドキャストは、私、栃尾江美が、好きな人やお話したい人をゲストにお迎えして、クリエイティブに関することや哲学的なことを好き勝手に話す番組です。これも宮田さんが出してくださったテーマなんですけど、写経について。写経のススメ的な。
(栃尾さんが)ツイッターで写経について書かれていたので、ちょっと聞いてみたいなと思いまして。
「小説を書き写す」ということをやっているんです。
なんで始めたんですか?
たぶん色んな方面から「きっかけ」があるんですけど、まず1つは、私は小説を書きたいんです、昔から。それでストーリーブックという商品があって、企業の創業期の「すったもんだ」や苦労話、うまくいった話をお聞きして、それを小説風に書いて冊子にするというサービスを今まで何回かやっていて、これからもやっていきたいんです。とはいえ、今まで色んな小説を読んできて、自分の書いたものがまだまだ未熟だということは読んだらわかるわけです。痛切にわかるわけです。書いているときにわかるわけです。やっぱり小説を書くのが上手になりたい、スラスラ書けるようになりたい、クオリティを上げたいという意味が1つ。さらに、私はコルクラボというコミュニティに入っていて、代表の佐渡島庸平さんが漫画家の方たちに色々と教えているんですけど、「まずは型を覚えなさい」とか、色々と覚えることを言ってるんですけど、私は覚えることがとにかく苦手なので、そっからやるのは私には向いていないだろうなと思ったんです。型は身につけたいものであることは確か。だけど「側(がわ)から覚えるのは私向きじゃないな」と思い、「じゃあ、中身から覚えるというか、インストールするっていうか、身体に染み付けさせるにはどうしたらいいだろう」と思ったときに、「実際の小説をどうにかして私にインストールせねばならない」と思って、小説をたくさんというか、それなりに読んでは来たけれど、まだインストールされていないから、「もうちょっと密着しないといけないんだろうな」と思って、そのために「浴びてみよう」と思った。それが写経かなって感じです。
なるほど。
あとは、安田佳生さんがポッドキャストで言っていたのは、留学中に日本語が恋しくて、1つの本を100回くらい読んだと。数冊持っていったのを、それぞれ100回くらいずつ読んだということを言っていて、帰国したらいつの間にかもう文章が書けるようになっていたって。それまでほぼ書いたこともなかったし、
それは面白いですね。
書くようになってたと言っていて、それはまさに身体に染みこんでいったんだなと思いました。あともう1個は、知り合いの漫画家さんが高橋留美子さんの漫画が超好きで、そのコマ割りを、アップとか引きとか、そういうコマをほぼ真似をして、ほぼ完コピに近い形でコピーして、自分の漫画を描いたと。そしたら、めちゃくちゃ面白くなったんですって。というのを聞いて、やっぱりコピーとか、写すみたいなことだなという、色んな方面でヒントがあって、写経だろって私に結論付けたって感じです。
形として写経っていう。
「写経っていうのをすると、きっとリズムとか文章とか、しかも好きな小説家の方だったら、色々と言語化できないもののすごく細かいディテールが入ってくるんだろうな」って思ったんですよね。っていう理由(笑)。
実際されてみてどうですか?
写経してみたら、読んでるだけじゃわからないことにすごく気づきますね。
読んでるだけじゃわからないこと。さっき言われたリズムとかそういうことですか?
リズムは“気づく”って言うよりも“入ってくる”んだと思うんです。気づくことは例えば、「こんなにページ数を割いているのにまだ全然時間が進んでいないな」とか、「描写というか、主人公が思っていることをただ書いているな」とか、あとは「ここで時間を戻って、過去の体験を書いているな」とか、「ここへきて、未来から今を見つめているな」とか。そういうのを“読んでいる”と物語に没頭しちゃうので、あまりわからないんですけど、“書き写している”と気づくっていうことがありました。だから、やっていてすごく面白いから、気づくことがどんどんあるので、それは私に向いているし、すごく意味があるなと今思ってますね。宮田さんも写経をやっていたと収録前におっしゃっていましたよね?
僕はもともと動画とか、音声の文字起こしから始まっていて、そのまま、ビジネス書も文字を自分で打ち直そうとしてみたりとかなんです。
きっかけは? 何か目的があったんですか?
きっかけは、僕には「なりきりたい」みたいな欲があって。
作家さんに?
作家さんだったりとか、その登場人物になりきりたい。もともとはセリフだけを文字起こししてたんだと思うんですよ。
ドラマとか?
ドラマとか、アニメとか、あと漫画とかですかね。
漫画のセリフを。
僕、例えば具体的に言うと、『鋼の錬金術師』がめちゃくちゃ好きなんですけど。
あー、言ってた言ってた。オススメされましたよね。まだ読んでないけど(笑)。
そのままだと吹き出しになっているわけじゃないですか? 最初は、気に入ったセリフだけをメモ帳に書き出すみたいな。みんなやると思うんですよ。
やっちゃう、やっちゃう。
あれがそのまま大人になっちゃった感じで、全部書き出すようになり出して、途中から。例えば『情熱大陸』とか、『プロフェッショナル(仕事の流儀)』とかに感動して、「出てる人すごい」って思うじゃないですか。その人の言っている内容を全部、まず一旦文字起こしして、「つねに持っておきたい欲」みたいなのが出てきていて、もともと文字にして残しておきたいみたいなのがあったんですね。
それはコレクター魂みたいな感じですかね?
そうですね。そのセリフを自分でどっかで使ってみたりしていくうちに、ちょっとずつ自分の言い方に変わっていくというか、そんな感じで始まりました。自分も何か文章を書くとなったときに、一度自分もビジネス書をそのまま同じように書いてみようとなり、写経っていいなって思っていたので、栃尾さんにちょっと聞いてみたかったんです。
それはどれぐらいやったんですか? 今もやってるんですか?
ビジネス書ですか?
ビジネス書とか漫画とかも、書き写すっていうのは。
動画をずっと写経してますね。
そうなんだ。
ビジネス書はやろうと一時期頑張っていて、実際本を執筆する前、自分自身が書く前に頑張ってたんですけど、それ以降ちょっとできてないですかね。
でも、意味があった気がしますか?
意味はあった気がしますね。さっき栃尾さんが言われてたみたいに、僕も聞いてるだけとか、読んでるだけだとわからなかった感覚が結構あり、「自分だったらこういうのに、ここでなんでこの言葉を言わなかったんだろう」とか、読んでいたらスーッて流れていったり、聞いていたらスーッて流れていくものが、やっぱりタイピング速度の限界みたいなものがあり、考える時間が増えるというか、「なんでこれを言わなかったんだ」とかね。それは自分の中に問いとして残るようになっていきました。それは大きいですかね。ビジネス書だったら、そういう問いがかなり残ったときに、やっぱり比較してみたくなるんですよね。
別の本と?
別の本と。「この人はこう言っているけど、この人は言っていないな、それはなんでなんだろう?」となり、色々と他の本も読み漁り、「こういうところが大事だとこの人は思っているのかな?」とか、考える余白をくれる気がします、写経は。
そうすると、宮田さんの解釈する写経は「ゆっくり読む」と同義という感じですか?
確かに近いものがありますよね。精読に近いんかもしれないですね。
ただゆっくり読んでたら飽きちゃいますもんね、飽きちゃうし寝ちゃいそうだし(笑)。
そうですよね(笑)。実際気づいたら寝落ちしてるってなりそうですよね。何なんでしょうね? 書き写しているときの感覚って何なんですかね? ちょっとわかんないかもしれない。
確かにゆっくりっていうのは1つですよね。あと、1回自分の中に入れて、例えば1つのフレーズとか、ワンセンテンスとかで覚えて、それを出しているから、一旦記憶するというのはありますよね。目を離してこっちでタイプしないといけないから。だからその分、ただ読むよりは記憶に入っているのかも。
そうですよね。
記憶しなきゃいけないから、短期記憶に置いておかなきゃいけないから。というぐらいなのかな? あと、書いたものをもう1回誤字脱字がないか見るから、やっぱりもう1回見るみたいなのはありますよね。
そうですね、写経……。
私タイピングが好きなんですよ。
タイピングそのものが?
はい。 それはないですか?
僕ですか? 意識したことがなかったです。
タイピングそのものが好きなんです。
それは「文字を出力していくのが楽しい」っていう感じなんですか?
たぶん指を動かすのが。
へえ、始めて出会いました(笑)。
奇特な人に(笑)。
タイピングそのものが好きだって言われるから。
ピアノを大人になってから1年ぐらい習ったことがあるんです。妊娠して止めちゃったんですけど。そのときに、指を動かす気持ちよさみたいなのがあって、それってキーボードをタイプしていたから、こんなに指が動くのかなと思って、それからキーボードをタイプするのも気持ちよさは同じだなと思いました。
なるほど、それは面白いですね。意識していたら、触覚の部分ですもんね、ここ。何かに触っていて?
ちょっといいキーボードを使っているんですよ。数万円するやつを。音とかも感触が気持ちいいやつを買ったんですね。カチカチカチっていうのがすごく気持ちいいっていう。それで楽しいのもあると思いますけどね。
写経が。
写経が(笑)。
なるほど、それはあるかもしれないですね(笑)。
先ほどのお話ですけども。
そうですよね。僕で言うと、写経そのものっていうよりは、写経して残ったセリフを使えるようにストックしておきたいっていうのもありますし。
そっか、そっか。私はたぶん、本当にそれも書き写しただけなので、書き写したものには興味はないですね。そういう意味で言うと。
内容にはあんまり。
あともう1個、読み語りというのかな? 読んでもいます。
音読?
写経だけでなくて、音読して、録音して、それを聞くっていうのもやりました(笑)。
すごいですね。それはどういう?
それはめちゃめちゃいいですね。
そうなんですか?
まず、読むときに意外とつっかえちゃうんですよ。だから、つっかえないように読むためには、やっぱりその文章のリズムとかを把握しないと、自分で咀嚼しないと読めなくて。スラスラと読んだあとに、何回何回も聞くっていうのは、いいですね。いいというか、自分の中に入ってきますね。
それよさそうですね。なるほど。
あんまり大量にはできないんですけど、疲れちゃうし、時間もかかるので。でも1回読んだやつを何回も聞けるから、それはすごくいいし、それこそ“ながら”で聞けるので。
すごいですね、自分の声で聞くってことですよね?
そうです。私はそういうのが好きなんです(笑)。
自分の声か。
読むっていうのは結構ハードルが高いというか。自分で聞いて、納得できる感じで読むのは、意外とハードル高いかもしれないです。録音するとなると。
めっちゃハードル高いですよね? 書く場合、文章は意味が“わかるところ”と“わからないところ”がごっちゃになって出てくるじゃないですか? 書くっていうのは、“わかるところ”はスーッて書くし、“わからないところ”は一旦考えながら書くじゃないですか?
確かにそうですね。
読むのは一定のリズムで進んで行かないといけないので、めちゃくちゃ難しそうじゃないですか?
失敗したら、ちょっと戻してもう1回録り直せばいいんですけど、それも結構手間だし。
時間結構かかりあますよね。小説とかビジネス書をってことですか?
そうです。でも本当にちょっとずつですよ。それはこの間やってね、「いいな」って思いました。またやろう。写経と音読と聞く、聞くってなんて言うんだろう?
僕オーディブルとかは、一時期電車の中で聞いていたりしたので。聞くのは僕も「いいな」と思っていたんですけど、自分で音読するというのはやったことがなかったので、やってみます今度。
いいと思います。オーディブルになってないやつとかはね?
そうですよね。
聞いて録音すれば。めっちゃ時間かかるけど。録音はめっちゃ時間かかりますよね。例えば小説とか。5、6時間分になってません?
なってますよね、最終。
そうですよね。たぶん読む人が、プロの人でゆっくりだから、それもあると思うんですけど、自分でさすがにそんな時間ね、読める気はしないですけど。試しにやってみたらいい。
やってみます。もうちょい薄いものから。
『銅(どう)の錬金術師』からやったらどうですか? 漫画から?
あっ、そうですね、錬金術師……(鋼なんだけどな)。
「鋼(はがね)」か(笑)。
(笑)。
『鋼の錬金術師』(笑)。「えっ?」ってなったんで、「あれっ?」って思ったんですけど(笑)。
ちょっとやってみます。実際、たぶん小学校のときとかって、音読しようっていう意識はないですけど、セリフを自分で連呼したりとかして、それに近いことになっていたような気がします。気に入っているセリフを呟いているという。「ただ言いたいだけやん」って言われる(笑)。
そうですね。それで写経をすすめ、すすめじゃないや、広めていきたいですね。そういう感じで、今日は終わりにしたいと思います。以上、栃尾江美と。
宮田匠でした。