
昔は「うーん」と1週間うなってアイデアを出していたこともあったという井上さん。今は、ある程度考える順序がわかってきてそのようなことはなくなったそうです。いくつかポイントを教えていただきましたが、印象的なのは「引き算」重要な要素を引き算することで、これまでにあり得ないものができるのだとか! 自分でもやってみたい!
栃尾クリエイティブの。
井上反対語。
栃尾こんにちは、ストーリーエディターの栃尾江美です。
井上こんにちは、造形作家のパンタグラフ井上です。
栃尾このポッドキャストは私、栃尾江美が好きな人やお話したい人をお呼びして、クリエイティブに関することや哲学的なことを好き勝手に話す番組です。引き続き、パンタグラフ井上さんよろしくお願いします。
井上はい、よろしくお願いします。
栃尾いやぁ、面白い話ばっかりで、もうちょっとビックリっていうかアレなんですけど(笑)。
井上(笑)。
栃尾そう、『クリエイティブの反対語』っていう名前なんですけど。
井上はい。
栃尾「ザ・クリエイター」みたいな人が出ることって、そんなにいつもいつもではないので。
井上なるほど、なるほど。そうですよね、ビジネスの方がいらっしゃったりとか。
栃尾そうです、そうです。あ、そう、事前に聞いてくださったんですよね。
井上はい、たくさん聞かせていただいて、面白かったです(笑)。
栃尾(笑)ありがとうございます。
井上やっぱり皆さんお話が上手だなと思って(笑)。
栃尾あぁ、そう。そういう方もね。
井上怯んでるんですけれども、はい。
栃尾そっか、作りながら聞けるって感じですか? 仕事中?
井上あっ、そうですね。えっと、実は仕事しながらは、なかなか聞けないですね。やっぱり集中してますね、すごく。
栃尾あ、そうなんですね。
井上なので、音楽もつけないで、もちろんラジオもつけないで、しーんとした中でやってることが多いです、僕の場合は。
栃尾面白い。けっこうデザイナーさんとかって聞きながらでもできる人いて。
井上僕にはできないんですよ、あれが。
栃尾そうなんですね。
井上『NetFlix』と『Amazonプライム』両方観ながらとかって言う人もいるんですよね(笑)。
栃尾いますよね(笑)。
井上「絶対に無理です」っていう感じですね(笑)。
栃尾あぁ、そうなんですね。人によるんですね。
井上と思いますね。
栃尾私、言語を扱うからダメなのかなと思ってたんですけど。
井上あぁ、そうですね。ちょっと頭の中にいろんなものが入ってきちゃって、ちょっとこうワァーってなっちゃいますね(笑)。
栃尾ふーん、そうなんだ。えっとですね、急にあれですけども。
井上はい。
栃尾やっぱり色々な作品を作られていて、本当に毎回ですね、「なんだこれは!」っていう驚きとか。
井上はい。
栃尾何て言うのかな、「そういうことだったのかぁ」みたいな、カタルシスみたいなのがすごいあって。
井上へぇ。
栃尾「どうやってアイデアを出しているんだ」っていうのをですね、作品によっても違うと思うんですけど。
井上そうなんですよ。
栃尾なんかちょっと教えて欲しいなと思って。
井上そうですね。そのぉ……、そうですねぇ、アイデアの出し方……。
栃尾うん。
井上昔は、ポンと出てましたね。
栃尾え?
井上若い頃は、ポンと出てましたね、確か。
栃尾どういうことですか、ポンと出るって。でも、なんか作りたいものがあって、「どうしよう」って考えててポンって出てくるのか。
井上そうですね、道を歩いていてポンって出たりとか、お風呂入っててポンっと出たりとか。
栃尾それってきっかけみたいなものなんですか? それとも出来上がりがワァって見えちゃうんですか?
井上うーんと、両方ありますね。もう最終形が見えることもありますし。
栃尾へぇ、すごい。
井上ちょっと言葉だけしか出てこなくて、これをどうやって最終形にしたらいいのかわからないんだけども、きっかけだけが出てくることもあります。
栃尾言葉なんですか?
井上はい。
栃尾へぇ。
井上うーんと、それも両方ですね。ビジュアルが出てくることもあれば、キーワードだけポロっと出てくることもありますし。
栃尾例えば、どんなキーワードとかって覚えてます?
井上なんだろう……、キーワード……、そうですね、まさに「アイデアの出し方」っていう。
栃尾あぁ。
井上えーっと、「アイデアをどういう風に出して、どういう風に練って、どういう風に混ぜていけば成果物になるか」っていうゾートロープを今、作ってるんですけども。
栃尾えぇ、そうなんだ。
井上はい、そうですね。なんかそれを作るときに、単純にアイデアを砕くとか。
栃尾はい。
井上アイデアをボールに今見立てて、作ってるんですけども、ボールを砕いて、それを練り上げて、また、色を付けて、形をまた粘土みたいに変えて、っていう工程を経てアイデアが成果物になっていくっていうものを作ってるんですが。
栃尾すごい。
井上そうですね、まさに「砕く」とか、「これ叩いて割ればいいんじゃないか」とか、「アイデアが膨らむときは風船みたいにポンっと膨らむ」とか。
栃尾はい。
井上なんかそういうことが言葉だったり、ポンっと膨らむとか。それから絵になって出てきたりとか、様々ですが、頭に浮かぶことがありますね。
栃尾ふーん。
井上言葉だとなんだろう……、言葉っていうと本当に単純に、「何々が何々」っていう言葉で出ることがあるんですけども。
栃尾ふーん。
井上意外な取り合わせですね。「何々が何々」。
栃尾あぁ、なるほど。
井上全然関係なさそうなAという言葉とBという言葉が、「AがB」とか、「AがBになる」とか。なんかこう本当に足し算ですよね、意外なものの足し算をするとちょっと変なものが出てくるっていうことで、言葉を使うこともあります。
栃尾その言葉が出てくると、そこからどんどん発想が広がるみたいな言葉。
井上そうですね。
栃尾へぇ。
井上はい、僕の場合は言葉から最後に絵にしていくっていうことが多いですねぇ。
栃尾そうなんですね。えっと、昔はポンっと出たっておっしゃってましたけど。
井上(笑)今はですね、もうだいぶ出し尽くしてしまっていますんで。
栃尾(笑)。
井上今はもうスケッチブックを開いて、「うーん」って考えたりとか。
栃尾へぇ。
井上もう本当に絞り出すっていう感じですね。もう何にも頭に入れないで、「うーん」って唸って出してます。
栃尾うん。
井上もしくは。
栃尾はい。
井上やっぱり長年やってて、自分の中でも傾向とかがあるので。
栃尾ふんふん。
井上「こういう風にしたら、こうやれば出るな」っていうのがやっとわかってきたんですね。段々ルールが。
栃尾ここ数年とかですか?
井上そうですね、ここ5年とかぐらいで段々わかってきた感じなんですけれども。
栃尾うん。
井上「昔、こんだけ、何週間も考えて出なかったものが、今は順序立てて考えると、だいぶ出るようになったな」っていうのがあるんです。
栃尾その順序を知りたいんですけど。
井上(笑)。
栃尾(笑)。
井上すごく単純なんですけど。
栃尾はい。
井上『日経パソコン』ってご覧いただいていた、立体オブジェのアイデアの出し方なんかまさにそうなんですけど。
栃尾あっ、そうなんだ。
井上さっき申しました、何かと何かを足すっていう足し算ですね。
栃尾はい。
井上これが全然意外なものの取り合わせだと、意外なほど、面白いものができるっていうことですね。
栃尾うん、うん。それをどっかから引っ張ってくるってことですか? 自分だと意外なものってなかなか出ないですよね?
井上あっ、そうですね。うーんと、例えば、そのぉ……、なんでしょうねぇ……、何だろう(笑)。あっ、もうリストにバーッてもうそれこそ言葉で書いて、その中から2つピックアップして足し算しちゃったりとかっていうこともします。
栃尾なるほど、はい、はい。なるほどねぇ。
井上昔、SF作家の星新一さん、ってわかりますかね?
栃尾はい、わかります。
井上星新一さんが1,000以上の短編を作られたときに、やっぱりそういう風にされたらしいんです。
栃尾へぇ。
井上言葉をたくさん「くじ引き」にして、2つ引いて、全然関係ない言葉を2つ、それをタイトルにして作るってそういうことをされたっていう話を聞いたことがあるんですけれども。
栃尾はい。
井上それにすごく似ていて。
栃尾あぁ。
井上全然違うものを足し算してそこから発想していくっていうのが足し算の発想ですね。
栃尾ふーん。
井上もう一つが、引き算があるんですよ。
栃尾えっ? そうなんだ。
井上引き算を発見して、何かこう普通のモノとかコトがあって、そこから「これがもしなかったら」っていう引き算をすると結構新しいものができちゃったりするんですよね。
栃尾えー、例えば。
井上例えばですけど、何だろう(笑)。
栃尾はい。
井上例えば、僕、『日経パソコン』でこれも作った作品があるんですけども。
栃尾はい。
井上えーっと、『Googleマップ』。
栃尾はい。
井上『Googleマップ』を検索して、プリンターでそのマップを印刷するっていうことをするとします。
栃尾はい。
井上そこから、「テクノロジー」っていう言葉を引くとどうなるかっていうことを考えるんですね。
栃尾うん、なるほど。
井上つまり、200年前、300年前にそれをしようとしたときに、じゃあ、何ができるかっていうことを考えると。
栃尾はい。
井上すごくアンティークな地球儀に、こう手回しのプリンターというか、印刷機が付いていて、地図みたいなものをグルグル出してくれるっていう、そういうアンティーク風な作品を『日経パソコン』に出したことがあったんですけど。
栃尾ふーん、はい。
井上そういう引き算をすることによって、新しいものができていくっていうことは結構しますね。
栃尾なるほどね。
井上ちょっとわかりにくいんですけど、そうなんです。
栃尾そこでこうテクノロジーを引くみたいな、肝になるところが思い浮かぶっていうところが1つ。
井上そうですね。
栃尾思考の才能みたいなところなのかなってちょっと感じましたけど。
井上なるほど、そうですね。僕の場合は、あらゆることを試すっていう感じですね。
栃尾うーん。
井上なので、1つのアイデアに対して、その卵をたくさん作るのが僕らのやり方で、また『日経パソコン』の話になりますけど、このオブジェを、この特集に何かオブジェを作ろうってなったときに、1つに対して、30個も40個も考えるんです。
栃尾ふーん、はい、すごっ。
井上そこからどんどん絞り込んでいくんですけれども。それが僕らのやり方で、とにかく、たくさん作って、その中から1つを選ぶ。もしくは、何個か足して、1つを作っていくっていうやり方をしています。
栃尾ふーん、そのたくさん産むっていう時点では、アイデアスケッチとかそういう感じなんですか? 本当に作るまではできないですよね?
井上そうですね、スケッチです。
栃尾はい、はい。
井上スケッチをたくさん描く。絵にならないぐらいぼんやりしたものだったら、言葉にしてメモしておくっていう感じですね。
栃尾なるほどねぇ。そのぼんやりしているものって、そのときキャッチできないと消えちゃったりしませんか?
井上消えます、消えます、あっという間に消えますから。
栃尾(笑)。
井上あっという間に消えますから、これはもう必ずメモしておくっていうことですね。
栃尾言葉だとでも、こう再現されなかったり、きっとするんでしょうね。
井上そうですね、言葉……、ただし、やっぱりそれって自分一人で考えると逃がしてしまったりとか、気づけなかったりとかするんですけども、『日経パソコン』のとき、僕らは何人かでチームでやることもあるので。
栃尾うん、うん。
井上何人かで編み出していることもあるんですね。僕が考えたものすごくつまらないことを、どうしようもないことを、他の人が育ててくれたりすることもあるんですね。
栃尾なるほど。
井上だから、必ずどんなつまらないことでも取っておくっていう風にして、皆で出たアイデアを共有して、相手のアイデアも、人のアイデアもどうにかならないかっていうことを考えるっていうのが、たくさんアイデアを出す秘訣っていうか、僕らのやり方ですね。
栃尾へぇ。じゃあ、結構話している途中に膨らんでいくとか、出てくるっていうことが結構あるっていうことなんですか?
井上それはあります、あります。はい、そこで育てていく感じですね。
栃尾へぇ、そうなんですね。でも、1週間もアイデア出しに悩んでいたことがあったと、昔は。
井上ありましたね。
栃尾苦しい、苦しい(笑)。
井上(笑)はい、それはですね、一番しんどいですね。やっぱり制作をしてる中で、アイデアを出すときが一番しんどいはしんどいんですけども。
栃尾その、出たアイデアの「良し悪し」を判断するところって難しくないですか?
井上あぁ、とても難しいんですよね。
栃尾はい、はい。
井上「このアイデアが本当に良いのかどうか」って、ここの判断がすごく難しいですよね。
栃尾どうしてるんですか?
井上おそらく3割くらいは、そこに良し悪しがあるとは思うんですけども。
栃尾はい。
井上元々そのアイデアが良いかどうかですよね。
栃尾あぁ、はい。
井上7割ぐらいは、その後の作業によるものだと思うんです。
栃尾すごい、7割。
井上7割以上だと思います。
栃尾うん。
井上なので出たアイデアを本当にどう料理するかってところがすごく大事で、そのアイデアを活かすも殺すも、その後の腕次第と言いますか。
栃尾なるほどねぇ。
井上機転次第っていうところはあるかなぁと思ってますね。
栃尾うん、確かに、それも『日経パソコン』の表紙ですけども。
井上はい。
栃尾アイデアだけだったら、私ここまで感動してないと思うんですよね。
井上あぁ、はい、はい。
栃尾たぶん本当に、すごくすごく美しく作るっていうか。
井上はい。
栃尾「これどうなってるの! 手作りなの!?」みたいな。
井上うん。
栃尾本当に、あの、どこぞのメーカーが綺麗に作ったプロダクトみたいな感じじゃないですか。それより美しいぐらいの。
井上うん。
栃尾で、綺麗に撮影もしてて。
井上はい。
栃尾だからそのできた姿に感動するっていうのが、確かにすごい要素としてはありましたね。
井上なるほど、なるほど。これもさっきのアイデアの話に繋がっていくかもしれませんけど、それも足し算ですよね。
栃尾はい。
井上アイデアと、アイデアだけじゃなくて、実物で作って、写真も何時間もかけてライティングして撮るっていう。
栃尾そうなんだぁ。
井上その両方を足し算するとやっぱり新しいものができていくっていくそういうことになっていったんじゃないかなっていう風な気がします。どっちかだけでもダメでしょうね、きっと。ダメというか。
栃尾うん、うん。
井上そこまで面白いものできなかったかな。やっぱり足し算してく必要あるのかなっていう気はしますよね。
栃尾なるほどねぇ、私ちょうどそのとき、ライターのあれで、「物撮り」の練習とかすごいしてたんですね。
井上あっ、そうなんですね。
栃尾そう、だからその美しいものを撮るのにね、どれだけ大変かっていうのを確かに想像して、で、「これ裏側はちゃんとできてるんだろうか」とかそういうのも考えてたんですけど。
井上(笑)。
栃尾「こっち側を撮ることだけを考えて作ってるのかな」とかね。それはでも裏側も綺麗に作ってたんですか?
井上もちろん、作ってないです(笑)。
栃尾作ってない(笑)。じゃあ、やっぱり撮影のためだけに作るわけですね。
井上そうです。この一点から見ればいいっていうことで。
栃尾逆にそれもすごいよなぁ。
井上割り切って作ってました。だから裏にかける労力を表側にやってましたね。
栃尾そうですよね(笑)。裏まで綺麗にしたら、何倍もかかっちゃうから。
井上そうです、そうです。
栃尾へぇ、なるほどねぇ。あー、ちょっとまたお時間になってしまったんですけれども、今日はこの辺で終わりにしたいと思います。はい、以上、栃尾江美と。
井上パンタグラフ井上でした。
<書き起こし、編集:折田大器>

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