【読むPodcast】#180 アングー代表の中川裕史さんがゲスト


ゲーム制作会社アングーの代表取締役である中川裕史さんにゲストとして来ていただきました! 以前お仕事でインタビューさせていただき、考え方が哲学的で本質的であることにとても感銘を受け、私のとりとめのない興味関心にもお付き合いいただけるのではないかと、ゲストにオファーしたのです。初回は、中川さんご自身のご紹介!

栃尾

クリエイティブの。

中川

反対語。

栃尾

こんにちは。ストーリーエディターの栃尾江美です。このポッドキャストは、私、栃尾江美が、好きな人やお話したい人をゲストにお迎えして、クリエイティブに関することや哲学的なことを好き勝手に話す番組です。今日は、声が変わったことでお気付きかと思いますが、新しいゲストの方に来ていただいております。アングー株式会社の中川さんです。よろしくお願いします。

中川

はい、よろしくお願いいたします。

栃尾

ゲーム制作会社ですね? アングーさん。

中川

そうです。

栃尾

先にどういう会社か説明してもらってもいいでしょうか?

中川

そうですね、4年ぐらい前に新しくできあがったゲームを作る会社です。

栃尾

はい。

中川

私、もう25年ぐらいですかね、長いことゲーム制作に携わってきました。で、新しくゲーム会社を立ち上げようと思ったんですけど……そうですね、業界の方も聞いてらっしゃるかもしれないので。

栃尾

ハハハ、どうでしょう(笑)。

中川

ちょっと言いづらいこともあると思うんですけど、結構日本のゲーム業界っていうのが、ちょっと元気ないなと個人的に思っていまして。

栃尾

昔に比べてということですかね?

中川

そうです。昔、20年前とか、もうホント日本のゲームは世界でも最高峰で、世界中の子どもたちが日本から飛び出すゲームを楽しみにしていたという時代から、今はだいぶパワーが弱まってきているなと思ってまして、そういうのを変えて行こうと思ったときに、本当に面白いものを作るスタジオがどんどん日本から生まれてこないと、そういう風にはならないなという思いがあったので、だったら自分でそういうスタジオを作ろうかと頑張ってみようと思って作った会社です。

栃尾

はい、ありがとうございます。それで私と中川さんが何で知り合ったかという経緯なんですけど、あれ? 本多さんは肩書きは何でしたっけ? 

中川

今は新規事業の室長をしています。

栃尾

そうなんですね、新規事業の室長の本多さんという方が、私が別でやっているポッドキャストを聞いてくださっていて。

中川

めっちゃ聞いてたみたいです。

栃尾

(笑)。そうなんですね。好きなポッドキャストも共通してて、ビックリして。で、今、収録のお手伝いをしてくれているアユミちゃんとも結構被ってたんだよね?(笑)。

金子アユミ:(頷く)

栃尾

被ってたりして、そうなんです。それでなんか仲間みたいな感じで。それを聞いてくださっていて、アングーさんのインタビュー記事を採用のために載せたいということで。

中川

そうですよね。

栃尾

それで、その仕事を打診してくださった、依頼してくださったということで、中川さんのお話とか、社員の方のお話をいろいろ聞いて記事にしたのですけど、それは例えば「アングー note」って検索すれば、もしかしたら出てくるかもしれないですね。

中川

出てきます。

栃尾

で、それはもう幾つかかなりアップされていて、そこで私はインタビューをしながらすごい感銘を受けたというか。すごいなと思って。

中川

いえいえ、お恥ずかしい。

栃尾

今の世の中っていうか、今の時代、ちょっと会社に入ったら、なんて言うのかな、好きなことができないというか、会社に入っただけでゴールじゃないみたいな。昔に比べて、成功するみたいなビジョンもないし、働くことに夢がないなって思ってたんですけど、こんなにも好きなことをやって、ゲームをみんな大好きで作っている方たちがいて、さらに売れるためにちょっと我慢して作っているとかじゃなくて、本当に好きなものを目指しているみたいなのが、もちろん、そういう売れるためのところもあるとは思いますけど、本当に目指しているのは面白いものとか、エキサイティングなものだというところがなんかすごいなと思って。

中川

ありがとうございます。

栃尾

中川さんの想いもすごいし、それで出ていただきたいなと思ったんですよね。

中川

嬉しいです。

栃尾

(笑)。そう、それでゲーム、何から聞いていこうかな。中川さんは昔からゲームがお好きだったんですか?

中川

僕はですね、ちょうどファミコン世代と言われる1973年生まれで、ファミコンが発売されたのが小学校3年生みたいな。僕たちの世代って、僕、田舎者なので、ちょっと都会の人はわからないですけど、午前中に友達が誰かの家に集まって、ファミスタっていう野球のゲームをみんなで対戦でやると、で、午後お昼ご飯を食べて、外の近くにある田んぼの、まあ夏じゃないんで田んぼも土の状態のところで、ソフトボール、駄菓子屋で買った100円のボールで。

栃尾

ゴムボールみたいな?

中川

ゴムボールのやつで、野球をするみたいな。

栃尾

へぇ。

中川

両方野球なんですけど(笑)。

栃尾

確かに(笑)。

中川

ほんとデジタルとリアルの遊びを分け隔てなく両方やるみたいな。今の子どもは結構ゲームをずっとずっと『フォートナイト』みたいな。

栃尾

『フォートナイト』ね、うちの子もやります。

中川

僕たちの世代は、割とファミコンみたいな遊びが初めて出てきたこともあって、両方ガッツリ遊ぶみたいな世代で。

栃尾

なるほどねぇ。

中川

本当に『ドラゴンクエスト』を経て、『スーパーマリオ』とかを経て、がっつり本当にゲームの進歩と共にあったみたいな世代なんですね。

栃尾

そうですか、そうですか。私は1975年生まれなので、ほぼほぼ一緒ですよね。じゃあ、私が小学校1年生のときに、ファミコンが出たってことですよね。

中川

それぐらいだと思います。

栃尾

私、全然買ってもらえなかったんですけど(笑)。でも、持ってる人と、持ってない人が結構いましたよね?

中川

そうでしたね。

栃尾

持ってる人の家に集まってって感じですか?

中川

そうですね。

栃尾

なるほどね、それでゲームは好きでずっとやってたんですか?

中川

そうですね、正月のお年玉で。

栃尾

はい、ソフトを買って。

中川

そうです。年に1本買うかどうかで友達と……

栃尾

交換したりね(笑)。

中川

貸し借りしたりして、又貸し問題とかね。PTAの議題になって、「あの子に貸したやつが返ってこない」とか問題になったりとか。

栃尾

ありそう、ありそう。高いものですからね。

中川

そうですね、高かったので、なので本当にすごい悩んでおもちゃ屋さんで5時間くらい座り込んで買うのを決めるみたいな。

栃尾

お年玉で買うってことですか?

中川

そうです、お年玉で買ったりとか。

栃尾

たぶん私たちって、まあ、今もそうかもしれないですけど、「ゲームに没頭してていいんだろうか」という罪悪感と戦うみたいなことってあると思うんですけど、そういうのってありました?

中川

僕の子どものときですか?

栃尾

とか、中高とか、大学生とか。

中川

あぁ、がっつりありましたね。僕たちの親の世代は完全にゲームって敵……。

栃尾

全否定ですよね(笑)。

中川

全否定じゃないですか。もう本当に、麻薬に近いみたいな。

栃尾

あぁ、そう、麻薬かも。

中川

それを騙し騙しやるとか、「じゃあ、テストで良い点取ったらやっていい」とか。

栃尾

なるほどね。

中川

宿題やったあとにちょっとだけだったらいいとか、本当にそういう世代じゃないですか。

栃尾

はい。

中川

だから、僕たちも「ゲーム=やってはいけないもの」みたいな刷り込みがあるので、やっぱりすごい悩んでましたし、受験のときも、ゲームやってて実際に勉強ができなくなっていくみたいなのを経験しながら、「どうしたらいいんだろう」みたいな。そういう世代だったので、罪悪感はすごいありました。

栃尾

それで、ゲーム会社に新卒で入ったんですか?

中川

そうです、新卒で。カプコンさんという日本でも大手のゲーム会社に、『ストリートファイター2』が大ヒットしたあとぐらいなので。

栃尾

で、『(ストリートファイター)3』をやられたんですもんね?

中川

『3』をやりました。

栃尾

『3』の話に行く前に、その罪悪感から「就職しよう」ってすごいこう何て言うんでしょう、なんか大きな意識の変化だと思うんですけど。

中川

そうですね、罪悪感はあるんですけど、ゲームが好きなことには変わりないですし、僕の親はたまたま別に就職どうこうを口出す親ではなかったので、普通に手堅いシステムエンジニアみたいな会社さんと、カプコンさんのような会社の両方を受けて、どっちにしようみたいな。たまたま、カプコンもゲーム業界に行こうと思って受けた訳ではなくて。

栃尾

あっ、そうなんですか。

中川

求人票みたいなのが学校にあったので、「カプコンって『ストリートファイター』のカプコン、へぇ」みたいな。

栃尾

「偶然」みたいな?

中川

偶然。それで、せっかくなんで「ダメ元で、受けてみよう」みたいな。ものすごい競争率で結構厳しいっていうのは聞いていたんですけど、せっかくなんで記念じゃないですけど、受けてみようっていう形で受けました。

栃尾

すごい狭き門だったんですね。

中川

そうです。それで、両方選択肢ができて、カプコンさんも受かって「どうしよう」ってなったときに、あんまり悩まずに、「どうせ仕事をこの先一生やっていく上で、面白そうなほうがいいだろうな」って、あんまり深く考えずにゲーム業界に飛び込みました。

栃尾

でも、今まで制御しなきゃいけないと思っていたものに、全力で打ち込めるってすごい嬉しいことだったですか? それともやっぱり仕事だなみたいな感じだったんですか?

中川

いや、僕自分で言うのもなんなんですけど、今思うとですよ、僕、虫みたいなもんだったと思っていて。

栃尾

えっ?

中川

もう何にも考えてないというか。

栃尾

そういう意味(笑)。

中川

虫レベルぐらいしか考えていなかったんですよね。深い考察で選んだとかではなくて。

栃尾

あぁ、今の子がね、めちゃくちゃ考えるからっていうのないですか?

中川

今の子に聞くと、すごい考えているなっていうのは思いますけど。

栃尾

そうですよね。

中川

本当に、「ゲーム面白そう、そっちの方がいいかな、行こう」ぐらいの感じで入って、実際に大変さを知って良かったのかなみたいな。

栃尾

良かった?

中川

その道を選んで良かったのかなって。

栃尾

あぁ、あとから思った感じですか?

中川

あとから思ったりはしました。大変だったので。

栃尾

あぁ、ハードワークってことですか?

中川

ハードワーク。

栃尾

はい。

中川

あんまり言うとあれなんですけど(笑)。

栃尾

そうなんですか(笑)。

中川

はい(笑)。

栃尾

『ストリートファイター3』の話、さっき出ましたけど、それをやり始めたのは何年目くらいなんですか?

中川

1年半とか、2年とか経ってからですかね。

栃尾

すごい嬉しいですよね?

中川

嬉しかったのは嬉しかったです。

栃尾

めちゃめちゃやり込んでたりはしたんですか? 『スト2』は?

中川

『スト2』はめちゃめちゃ売れたゲームで、僕も学生時代から。

栃尾

私もちょろちょろやってましたよ。

中川

ほんと、周りの人みんなやってたぐらいだったので。

栃尾

「昇竜拳」(註:『ストリートファイター』の主要キャラが出す必殺技)出ないなとか思いながら(笑)。

中川

「その昇竜拳を自分で作るのか」みたいなところで。

栃尾

そっか(笑)。

中川

「えっ、いいのか?」みたいなのはありましたけど、これ言っていいのかわかんないですけど、あとでカプコンの知ってる人に何か言われてしまうかもしれないですけど、機密事項ではなくて、社内で言うと「あの『スト2』のあとの『スト3』をやる」ってなったときに、結構みんな恐れ多いというか、プレッシャーがデカすぎて、「やっていいんだろうか、怖い」みたいなのもありました。

栃尾

なるほどねぇ。

中川

当時偉い人が、やりたいディレクターとかプロデューサーいるかってなったときに、誰も手が上がらなかったというエピソードみたいなのもあったりして。

栃尾

そっか、プレッシャーが凄すぎて。

中川

プレッシャーが凄すぎて、とんでもない仕事を引き受けることになるので、意外とみんな「やりたい、やりたい」というよりも、「……」みたいな。

栃尾

中川さんはどうだったんですか?

中川

僕は下っ端だったので、もう配属「お前、『スト3』ね」って言われて、「はい」って。

栃尾

でも、言われたんですね。

中川

言われました。「あ、わかりました」みたいな。

栃尾

そんなにね、責任も。

中川

そうです、そんなに深い考えはとくになくて。

栃尾

やれるもんなら。

中川

「『ストリートファイター』マジか」みたいな。「そう」みたいな感じでしたけど。

栃尾

へぇ、実際大変だったんですか?

中川

大変でしたね、やっぱり。

栃尾

求められるレベルがとか?

中川

やっぱり作りながら、「『ストリートファイター』を作ることの意味」みたいなものが。

栃尾

へぇ、哲学的、それこそ。

中川

やっぱりわかってくるっていうか。世界中で何百万、下手したら何千万みたいな人が楽しんでいたものの続編っていうことは、前のやつよりも面白くなければいけないっていう。前のやつは、もうどうやって作ったのかわからないぐらい凄いわけですよ。

栃尾

想像もつかない。

中川

「それよりも上を作るってどうなの?」みたいなところで、チームの構成メンバーも結構ガラッと変わったんですよね。『ストリートファイター2』を作ったメンバーを中心として作ったわけではなくて、メンバーがかなり一新されていたのもあって。

栃尾

それもドキドキしますね。

中川

もう本当にドキドキしますし、もちろん、期限もありますし、すごい色々悩みながらやったのは覚えています。

栃尾

へぇ、それですみません、随分(話題が)飛ぶと思うんですけど、時間オーバーするとあれなので(笑)。

中川

そうですよね。

栃尾

それで急に今の会社なんですけど、色々元々ずっとエンジニアをやってらして、それで新しく会社を作ろうって思うのって、どういう心境の変化なんですか?

中川

そうですね、元々カプコンさんの方で、色々ステップアップさせていただいて、マネジメントとか事業を見るみたいな、モバイルの事業の責任者をやらせていただいて。

栃尾

スマホのほうですか?

中川

そう、スマホとオンラインゲームの両方。で、そちらのほうで、色々事業としてやっていく経験をさせていただいた中で、やっぱり自分がゲーム開発でずっと思ってきたこと、すごく難しい世界なんですね。やっぱり多くの人で何かものを作っていって、面白いものを作るって、簡単そうであって。

栃尾

いや、難しいと思いますよ。ライバルもいっぱいいるし。

中川

色んな本当に構造的な問題もありますし、ビジネスっていう問題もありますし、そんな中で本当に大きな企業で一から自分の考えを活かしていくっていうのは難しいので。

栃尾

なるほどね。

中川

やっぱり自分の考えをそのまま反映させれるかというと、社長にならないと極論を言うと、自分の思ったとおりにできるかというとなかなか難しいところもある中で、そのときに、息子が生まれまして。私は父親がいなかった家庭に育ったもので。

栃尾

そうなんですか。

中川

父親の背中とか、キャッチボールしたいとか、なんかそういうイメージがある中で、「親父として息子が誇らしい親になりたい」みたいなのがすごいあったんですね。で、息子が生まれた瞬間に、この息子が「本当にお父さんって凄い」って思ってもらえる人生を俺、歩まないといけないなってすごい考えたんですよ。

栃尾

はい。

中川

別にカッコいい話じゃないんですけど、結構思って、じゃあ、自分が今悶々と考えていることを思いきってやる。色んな方、すごい可愛がってくださってるカプコンさんの中でもすごい上司の方とか、僕が新人のときから可愛がってくださった方とかが、「残れ」とか言ってくださったり、色々と気にしてくださったんですけど、人生1回きりですし、頑張ってチャレンジしたいなと思ったという形です。

栃尾

へぇ、そういうタイミングが重なってっていう感じですね。

中川

そうですね。

栃尾

じゃあ、またこのあと、次回以降も色々と想いとかお伺いしながら進めてまいりたいと思います。私、ちょっと告知をさせていただきますとですね、そうだな、今日は「栃尾江美」っていうので、例えばツイッターで検索してフォローしていただけると、色々私が言いたいことをしゃべっているので、フォローしていただけると嬉しいです。ということで、以上、栃尾江美と。

中川

中川でした。

<書き起こし、編集:折田大器